<第5回>「痛いなんて言ってる場合じゃない!」恩師の怒声にキレかけた
それからの私は「孤独」との闘いでした。
誰もいないリンクとはいえ、悲鳴を上げながらの練習ばかりでは自然と気持ちは落ち込みます。見守る先生(長久保裕コーチ)は、迫り来る本番に「本番目前だ。痛いなんて言ってる場合じゃない!」と厳しい指導。もちろん優しい言葉はかけてくれません。
「この人は私のことを全くわかっていない! 激痛に耐えながら出来る限りのことをしてるのに……」
いつしか先生に対し、そんな感情も出てきました。五輪後にチームの人から教えてもらったのですが、この時の先生は、あえて私を叱責していたそうです。苦しむ私に同情すれば、私の気持ちが切れると長年の師弟関係から誰よりもわかっていたのです。だから、わざと「鬼コーチ」になっていたそうです。
私は周囲の配慮を知らないまま、限界に近づいていました。両足の小指は親指の大きさにまで膨れ上がり、懸命に治療を続けてくれていたドクターからも、「ウミなら注射で抜けるけど、その腫れは炎症だからどうしようもない」と……。