当時のリリースエース橋本清氏が語る「10.8」決戦の舞台裏

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喜々としていた長嶋監督

 ボクは前年に続いてこの年もチーム最多の52試合に登板。抑えの石毛とともに長嶋監督から「勝利の方程式」と呼ばれ、チームに貢献している自負がありました。試合展開によって、どんな状況でもマウンドに上がらなくてはいけないリリーフは特殊な仕事です。絶対的な力があった当時の3本柱でも、不慣れな、しかも負けたら終わりの一発勝負の決戦で、力を発揮できるのか。3本柱の力を信用しながらも、正直、大丈夫かなと不安も頭をもたげました。

 斎藤さんは2日前の10月6日のヤクルト戦に先発したばかり。しかも、その試合で古傷の右足の内転筋を痛めたことを知っていました。桑田さんもその前日の5日のヤクルト戦で8回を投げ抜いていたのです。

 バッテリーミーティングが終わり、ホテルの宴会場に移動。全体ミーティングが始まりました。長嶋監督が「勝つ! 勝つ! 勝つ!」と叫んだとされる、あの伝説のミーティングです。でも、実はボクには確かな記憶がありません。覚えているのは、その場に当時の保科球団代表を筆頭にフロント関係者が出席していて、緊張感に拍車をかけたこと。そして、目をらんらんと輝かせ、自信に満ちあふれた表情の長嶋監督が、「大丈夫だ。絶対に勝てるから。心配するな」と断言したこと。「オレたちが負けるはずがない」「向こうの方がプレッシャーがかかっている」「なにも心配はいらない」という言葉は断片的に頭に残っているだけです。

■長嶋監督の訓示でチームはトランス状態に

 そんな長嶋監督の訓示を聞いているうちに、一種の洗脳状態というのか、トランス状態のようになっていたのだと思います。最後に長嶋監督が「オレたちが絶対に勝つ!」と言うや、自分の口から「おぉぉう!!」と腹の底から湧き出るような叫び声が出て、それで我に返ったような気がします。周りを見るとチームリーダーの原辰徳さん、主砲の落合博満さん、入団2年目の松井秀喜らみんなが、とんでもなく怖い顔をして叫んでいました。

 試合は、二回に落合さんの先制ホームランが飛び出すなど終始、主導権を握る展開。予定通りの3本柱リレーで中日の反撃を断ち、巨人がチャンピオンフラッグを手にしました。最終戦決戦が決まってから極限の緊張状態に置かれていただけに、最高の形で解き放たれたあのときのビールかけは過去のどんな優勝より盛り上がりました。

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