トップ自ら謝罪 アストロズオーナーが示した危機管理能力
これに対し、たとえ緊張した面持ちで手元の資料を確認しながらであっても、球団経営の最高責任者であるクレインが機構による処罰の受け入れを表明し、関係各所への謝罪と関係者の処分を明言すればどうなるか。
クレイン自身が処分を免れたことに批判が寄せられたとしても、「球団として意思決定したものだから」とこれ以上の措置を取る余地はないという世論を形成することに役立つ。
こうした手法は、毎日内政や外交の問題についてツイッターに自らの意見を投稿する米国大統領ドナルド・トランプにも通じる。政治家や評論家から「大統領としての品位を欠く」、あるいは「相手国との対立を深める」などと非難されてもトランプがツイッターでの発言をやめないのは、米国の最高権力者が発言することで、例えば外交問題の交渉相手に「米国は容易に妥協しない」と思わせ、妥協させる可能性を高めるのだ。
貿易問題で対立する中国がしばしば米国に譲歩するかのような態度を示すのも、相手に交渉の余地に限りがあると思わせるトランプ流の手法が奏功している証拠と言えよう。
その意味で、ともに実業家として名を馳せたクレインとトランプは、実践で鍛えた交渉術を、それぞれの立場で存分に発揮しているのだ。