十文字貴信さん 自転車も麺も正解がないから夢中になれる
朝が来るのが待ち遠しい
2019年1月15日に競輪を引退し、現在は千葉県柏市で「白河屋」を経営している。自分の原点となったお店と同じ名前、そして、一目で白河ラーメンと分かるシンプルさから許可を得て、屋号をこの名に決めた。
ラーメン作りには自身のこだわりの強い性格が非常に合ってるという。
「選手時代は引退までずっと自転車の調整に熱中していました。1ミリ以下の単位でメンテナンスして、自分の体に合わせていく。朝6時から始めて気が付くとお昼を回っていることもザラでした。わずかな変化が結果に大きく影響する。これは麺作りも一緒です。白河ラーメンは、例えば4リットルの水を使うとして、おちょこ1杯の水量の差で出来栄えが全く変わってしまう。気温と湿度の変化でその日に合った水量を探らなければいけません。これが非常に難しい。でも、本当に楽しいです。毎晩布団に入ると明日の仕込みを考えているので、朝が来るのが待ち遠しいほど。自転車の調整は20年近くやっても答えは出ませんでした。きっと白河ラーメンも100点の正解にたどり着けないかもしれない。だからこそ夢中になれます」
店は夫婦で切り盛りしているため十文字氏の朝は早い。10時半の開店時間に間に合わせるべく朝4時すぎから準備を始め、仕込み作業を1人で行う。10時前に奥さんが合流し、2人で味の最終チェックを済ます。平日は14時までの営業だが、土曜日は行列ができ、売り切れることも珍しくない。コロナ禍の影響で4月25日から店を閉めているが、1日から営業を再開する。今や食べログの評価は3・51(5月末現在)の人気店だ。
「初めて来た人には、やっぱりオーソドックスな『中華そば』に『煮卵』のトッピングがオススメです。研究を重ねた結果、煮卵は4日間漬けています。お客さんから『これ注射器で中に味付けしているの?』と聞かれるほど、中心まで味が染み込んでいます。使っている卵はLサイズ、そしてトロトロ半熟です!」
十文字氏の白河ラーメン研究は続く。
▽じゅうもんじ・たかのぶ 1975年11月10日生まれ。現在の千葉県野田市出身。95年に競輪デビューし、96年アトランタ五輪で銅メダル獲得。以後20年以上S級で活躍。2019年に引退し、現在、千葉県柏市で「白河屋」を経営している。