御獄海も“短命ダメ大関”の仲間入り? 粗製乱造の弊害と求められる昇進基準改革
「みなさん、注目していてください」
3度目の賜杯を掴み取った御嶽海(29)が、力強く言い切った。
千秋楽までもつれにもつれた大相撲1月場所。23日はまず、阿炎が琴ノ若との3敗対決を制した。結びで横綱照ノ富士が御嶽海に勝てば、この3力士が3敗で並ぶ。28年ぶりとなる3力士による巴戦の期待もあった。しかし、そこは勢いに乗る御嶽海。立ち合いの左おっつけで横綱の右下手を封じると、2本差してから一気に寄り切った。
■臨時理事会の招集
これで御嶽海は三役で3場所33勝を達成し、大関昇進基準をクリア。昇進を諮る臨時理事会の招集も決定した。
優勝インタビューでは「(立ち合いは)特に考えず、正面からしっかり当たって、後は動いて動ききれば自分が勝てると思いました」と、横綱戦に自信を持っていたことを語った御嶽海。場所後の臨時理事会について聞かれると、感極まって数十秒沈黙した後、「なかなかそういう経験ができるのはそうないんで、素直にうれしい」と話し、大関としての晴れ舞台になるであろう来場所について冒頭の言葉で締めた。
長野県出身の大関は江戸時代の伝説的力士、雷電為右衛門以来227年ぶり。御嶽海にも「今雷電」として活躍してほしいものだが、気がかりなのが大関という地位だ。
増える短命大関陣
近年は大関の粗製乱造が目立つ。2014年に昇進し、歴代10位の大関在位33場所と長く活躍した豪栄道(現武隈親方)以降は、さらに顕著だ。栃ノ心は大関として5場所しか土俵を務められず、近年は貴景勝と高安の15場所が最多。とにかく短命大関が多い。
その貴景勝にしても昇進後は54休とケガばかりで、今場所も自身8度目の休場。カド番も来場所で5回目だ。正代はケガこそ少ないものの2ケタ勝利は昨年1月場所のみ。今場所は3場所続けて割を崩され、横綱大関との対戦がないにもかかわらず、6勝9敗と負け越し貴景勝と並んでカド番を迎えることになる。
確かに今の御嶽海は人が変わったように強くなったが、前述の“先輩”たちだって昇進直前に結果を出したからこそ、大関になれたわけだ。御嶽海が彼らと同じ轍を踏まない保証はない。
「本来、御嶽海にとって今場所は大関とりの場所ではなかった。昇進基準の3場所33勝の起点となる2場所前が9勝止まりで、大関とりのムードも皆無でした。横綱を破っての優勝は見事だが、正代や貴景勝の不甲斐なさが御嶽海の昇進を後押ししたと言えなくもない。来場所、2人が同時に大関から陥落する可能性が十分あるため、御嶽海を昇進させなければ大関不在になりかねない。大関は番付上、空位は許されない地位。不在の時は横綱が大関を兼ねる『横綱大関』を名乗るのも、そのためです。まして御嶽海は過去、優勝翌場所は9勝6敗、6勝9敗。これ以上待っていたら、熟した機を逃すことになりかねない。大関の粗製乱造には非難もあるが、まずは空位を避けたということではないか」(ある親方)
■求められるのは安定した成績
どんな大関でも番付上は必要──となれば、ダメ大関を生まないためにも、昇進基準を変える必要がある、との声も出ている。大関に必要なのは何よりも安定した成績だ。
「その意味で言えば、御嶽海は大関以上の安定感があると言っていい。幕内在位37場所で三役(関脇・小結)在位は28場所。現在も10場所連続三役ですからね。三役を維持することは大関でいるよりも難しいんです。大関はカド番制度があるので、仮に全敗しようが翌場所で勝ち越せばいいだけ。ところが三役は基本、負け越せば地位陥落。大負けすれば確実に平幕に落ちる。安定感を求めるなら直近3場所の成績ではなく、例えば『5場所50勝』とか、前年の年間勝利数を考慮するなど改革のやりようはありますよ」(角界OB)
御嶽海がどんな大関になるかはともかく、制度見直しは必要だ。