川崎春花19歳でのツアー&メジャー初Vに父の献身サポート “1年生”の勝利に「3つの要因」
伸び伸びプレーを生んだ“脱イジメ”
それにしても、だ。8月に下部のステップアップツアーで勝っているとはいえ、今季のツアー成績は10試合でベストフィニッシュはリゾートトラスト女子の29位。半分以上の6試合は予選落ちだった。
今大会は「最強女子プロ決定戦」と呼ばれ、公式競技なので通常の冠大会よりコースセッティングが難しい。優勝賞金(3600万円)も高額だ。そんな大会で、新人プロが最終日に64の好スコアを出し、4打差を逆転できると、誰が予想できたか。
テレビ観戦していた並木俊明プロが言う。
「30年前なら19歳の選手が勝つなんて考えられなかった。1つはクラブの進化です。川崎の18番の第2打は右ラフからユーティリティー(6U)でピン奥8メートルに乗せてバーディーを奪った。昔に比べて用具がよくなり、ゴルフがやさしくなった。2つ目はスイングと精神面です。今の若い選手はスイングがしっかりしており、アドレスが決まれば、狙ったところへ迷いなく思い切り打てる」
さらに並木プロが続ける。
「ジュニアの頃から実戦経験が豊富でコースマネジメントもうまい。4日間でボギー2つは立派です。後半のバーディー量産は、よくいうゾーンに入った状態で、どんなパットも『入るんじゃないか』と思って打っていたはずです。試合慣れしてメンタルも強く、気持ちが乗ると、怖いほどパットが入る。気持ちいいほど、伸び伸びプレーしていた。逆に山下はパットが入らず気持ちが乗っていけなかった」
■「先輩が呼んでるよ」
一方で、ツアーに参戦経験のある女子プロは川崎の優勝を見て、こんな話を聞かせてくれた。
「かつて、ツアー1年目は先輩プロに付き添われて会場のレストランにいる女子プロ全員に『よろしくお願いします』と挨拶するのが決まりでした。今では華やかなゴルフウエアは当たり前ですが、昔は先輩プロの目が厳しかった。丈の短いスカートをはこうものなら、『先輩が呼んでいるよ』とロッカールームでの説教になり1時間近く立たされたまま。『アナタは男性ギャラリーに媚を売っているの?』とネチネチやられた。もちろん、先輩の指導は絶対であり、無視することはできなかった」
練習ラウンドでも、隅々までコースチェックしようとすると、「早く走れっ!」とすぐに先輩の怒号が飛んできたという。
1年目のプロは、まず先輩の顔と名前、ツアーのしきたりなどを覚え、試合会場の雰囲気に慣れるのが先だった。
そんな女子ツアーのムードを一変させたのが高校生でツアー優勝し、一大ブームを巻き起こした宮里藍だった。
「藍ちゃんブームで女子ツアーが一気に盛り上がり、マスコミやファンの注目度が上がった。うるさい先輩プロは口を閉じるようになり、陰湿なイジメもやがて消えていった。最近は後輩選手に少しでも厳しい言葉を投げかけようものなら『パワハラ』と言われる。それは女子プロ界にとって良いことですが、今は先輩に臆することなくプレーできるし、賞金も高くなった。若い選手は本当に幸せです」(前出のプロ)
女子プロが1年目からメジャー大会で活躍できるのは、そんな背景もあるというのだ。