高安や稀勢の里も…“腰高の力士”が無理に腰を落とすと攻めるスピードが落ちる
北の富士も優先した「武器」
現役時代に速攻を身上とした北の富士。前に落ちるリスクがあるとはいえ、足腰の強さや角度、足の送り方はまた別なのか、幕内・十両の間にはたき込みで負けた取組が6番しかなかった。
かかとを浮かせてつま先で出る力士にも理解者がいる。最近では、阿炎や一山本を九重親方(元大関千代大海)が解説で支持していた。
引き技やいなしを食わないよう、すり足が基本とされるが、土俵を蹴る力やスピードはつま先で出る方がつく。「人間、走る時はつま先で走る」と九重親方。かつての千代大海も、出足がいいと相手がいなす間や回り込む間を取れなかった。
必ずしも今どきの発想ではなく、古くは金剛が「ロケットスタート」と称し、足の幅を縮めて膝を内側に入れ、飛び出すような立ち合いをしたことがある。
長所や武器は、時に「教科書」と食い違う。プロ野球には、子どもはまねをするなと言われた強打者が何人もいる。基本を超越した特別なものがあるからできるのだが。
大関陣の悪口ばかり言っても観戦が楽しくない。高安の悲願はかなうか。大関をうかがう若隆景、しぶとく勝ち越しを続ける豊昇龍、霧馬山ら期待の力士たちの誰が、いかに自分ならではの武器をつくるか。頭を柔らかくして、いろいろな声を聞きながら見てみよう。
▽若林哲治(わかばやし・てつじ)1959年生まれ。時事通信社で主に大相撲を担当。2008年から時事ドットコムでコラム「土俵百景」を連載中。