大鵬に勝った佐田の山の自負と屈辱「俺だって横綱だ。インタビューされる覚えはない」
NHKがどうしてもインタビュールームに呼ぶなら、せめて「かち上げが効きましたね」とでも切り出せばいいのに。大関経験者の高安が、転落後に大関を破ったのは九州場所3日目の貴景勝戦で、もう7度目。「おめでとうございます」で始まるインタビューはどうかと思う。
1966年秋場所14日目、佐田の山が横綱同士の大熱戦で大鵬に勝った。当時は民放も放送しており、支度部屋へ戻るとマイクを向けられた。
「おめでとうございます」「ばか野郎。俺だって横綱なんだよ。インタビューなんてされる覚えはない」
この一番、佐田の山は優勝が懸かっていたわけではないが、前場所まで大鵬に4勝22敗。しかもこの時の大鵬は2度目の6連覇の4場所目だった。
後年、「私も口が悪いからあんなことを言ってしまった。何とか大鵬に勝たなければと思っていたから、横綱を務められたんだ」と述懐したが、勝負直後で気が立っていたのも無理はない。
昭和最後の取組となった88年九州場所千秋楽では、大乃国(現芝田山親方)が千代の富士の連勝を53で止め、日本中が大騒ぎになった。
大乃国は穏やかに取材を受けたが、「相撲全体の雰囲気が千代の富士関の連勝だけという感じになって、自分はその陰にすっぽりと隠れてしまっていた」と語り、ここまで連勝を許したことに対する、同じ横綱としての責任も口にしている。
佐田の山も大乃国も、優勝でもないのに横綱同士の対戦に勝って騒がれることへの、じくじたる胸中が違う形で表れた。