「月日の残像」山田太一著
■名シナリオライターの精神の軌跡
「岸辺のアルバム」や「ふぞろいの林檎たち」など数々の名作ドラマを生み出した著者が、今までに出会った人々や小さな日常の出来事や言葉など、ひとつひとつの記憶の残像を取り出して丁寧に描いたエッセー集。季刊「考える人」に9年にわたって連載された35編がまとめられている。
戦争で疎開した子ども時代、松竹撮影所での助監督修業時代の思い出、木下恵介、向田邦子、市川森一などあの世に旅立ってしまった人との忘れられないやりとり、シナリオライターという職業から見た景色などが語られていく。さらに著者が若いときに読んだ本の中から気になった一節を抜き出して書いていたという「抜き書きノート」の内容も紹介されており、そこから著者の精神の軌跡をたどることもできる。劇作家のニール・サイモンの自伝、山之口貘や中桐雅夫の詩、トリュフォーの映画、チェーホフの手紙など、著者が触発されてきた作品の数々も興味深い。
「ドラマにせよ小説にせよ映画にせよ戯曲にせよ、頭の中の大半が嘘の話で占められている」と自嘲する著者の実生活に流れる、静かな息遣いが文面から聞こえてくる。