「青線」八木澤高明氏
「“売春島”といわれる三重県志摩の渡鹿野島には、廃虚と化したスゴい量の木造アパートがありました。最盛期に300人の売春婦がいた名残です。そんな中を歩いて行くと、東南アジア人とおぼしき若い女が布団を干しているところに出くわしたりした。僕が行ったのは2年前ですが、外国人8人と日本人5人が客をとっていて、僕は4万円でタイ人を買いました」
15年前に横浜・黄金町に足を踏み入れ、そこに巣食う喜怒哀楽に引きつけられた著者が、10年以上かけて全国の売春街を訪ね歩き、本書を著した。タイトルの「青線」は、売春防止法が施行される1958年まで売春容認の地だった「赤線」に対し、非公認で売春が行われていた地のこと。
「赤線は元遊郭で豪壮な建築が多く、記録もされています。でも、安普請のスナックやバーを装い、手っ取り早く2階で売春した青線は人々の記憶にしか残っていません。非合法のユルい地だったから、売防法後も続いたんですね。でももう風前のともしび。青線を中心に、そういった輪郭が曖昧な街の土地の記憶や女と男の記憶を書き残したいと思ったんですよ」