グローバル社会ではイスラームの知識は不可欠
「クルアーンを読む カリフとキリスト」中田考、橋爪大三郎著
イスラム法学者・中田考氏の著作が次々に出ており、そのどれもが刺激的である。中田氏は、2014年、日本人学生が過激派組織「イスラム国(IS)」に参加を希望し渡航直前に公安が阻止した際、同組織への仲介役といわれ社会的注目を浴びた。いまだにその道義的責任を問う声もあるが、本書で中田氏は「私としては、いまのISに行くことを止めてるという、それはやめてほしいと思います」ときっぱり言っている。
またいずれにしても私たち一般人は、あの一件をきっかけに日本にも信徒の立場でイスラーム法をわかりやすく説いてくれる逸材がいることを“発見”したことはたしかだ。
灘高から東大に進んだ半生については、「私はなぜイスラーム教徒になったのか」(太田出版)でくわしく語られている。同書も抜群におもしろい。
さて、このところ立て続けに対談集を出している中田氏であるが、今回の対話の相手は、大澤真幸氏との「ふしぎなキリスト教」(講談社現代新書)や佐藤優氏との「あぶない一神教」(小学館新書)などで知られる社会学者の橋爪大三郎氏である。本書で橋爪氏は、イスラム教の正典である「クルアーン」について中田氏に直球の質問を投げかける。たとえば「救済」についての議論の中で、橋爪氏は「ユダヤ教徒は救われる?」「キリスト教徒は?」と聞いたあと、「では、日本人は救われますか?」と質問する。それに対する中田氏の答えは、「明治より前のイスラームについての知識がなかった時代だと、確実に救われますね」。預言者ムハンマドが来たことを知らない人は救われ、知っているのに信じない人は救われない、というのが基本なのだそうだ。
最終章の後半で橋爪氏はイスラームの考え方が「キリスト教文明の考え方と正面衝突する」という重大な問題に踏み込むが、それについては「イスラームにもさらなる理解を」という落としどころで終わるのもまずは致し方ないといえよう。グローバル社会を生きるというなら、イスラームについての理解は不可欠。ビジネスマンにもぜひ一読をおすすめする。(太田出版 2000円+税)