「きみを夢見て」スティーヴン・エリクソン著
突然だが、本紙を購読するあなたは、世の中や政治についてもかなりの関心を持っているのだろう。そして恐らく、今の権力のあり方については批判的な見方をしているに違いない。しかし、そのことは会社や家庭では話しにくいな、とも感じているはずだ。
時間や空間が交錯する風変わりな作品で知られるアメリカの作家、スティーヴ・エリクソンの新作の主人公ザンも同じだ。自分から政治の話をしないばかりではなく、人々が議論をしているときでも政治については語らないようにしている。昔はそうではなかったのに、今では対立を嫌っているのだ。
ザンは地元の大学で文学やポップカルチャーを教え、ラジオ局でDJを務めている。妻のヴィヴは写真家、息子、そしてエチオピアから迎えた幼い養女の4人で暮らすというなかなかの文化人ぶりだが、ちょっとしたことから家計は急激に悪化、ついに持ち家を追われるときがやって来る。ザンはやむなく、妻の元カレに職を斡旋してもらい、一家でロンドンに向かうことになる……というのがメーンのストーリー。
ただ、途中からロバート・ケネディや彼の選挙運動を手伝ったエチオピア女性のサイドストーリーが入り込んでくる、といったエリクソン流のわかりづらさはご愛嬌。