「きみを夢見て」スティーヴン・エリクソン著
今や家族の幸せだけを願って奮闘するザンだが、子どもたちと出向いたロンドンでのいくつかの事件で、自らのイメージの中で、そして何よりアフリカから来た養女の存在により、民主主義や暴力、人種差別といった政治の問題にいや応なしに向き合っていくことになる。そのハードな旅でザン自身、そして家族はそれぞれが救済され、絆はいっそう深まっていく。
小野正嗣は帯にこんなキャッチコピーを寄せている。「アメリカに救いはあるのか? あらゆる境界を越えて響く、傷ついた魂の歌」。そう、本書のもうひとりの主人公、それは音楽だ。そして私たちは、この「アメリカ」を「日本」に置き換えながらこの傑作を読まずにはいられない。果たして、この国に救いはあるのだろうか、と。(筑摩書房 1400円+税)