「コーヒーが冷めないうちに」川口俊和著
路地裏の地下にある喫茶店フニクリフニクラ。そこのある席に座ると、望んだ通りの時間に移動ができるという。ただし、そのためには面倒くさいルールが存在した。過去に戻っても、この喫茶店を訪れたことのない者には会えない、どんなに努力しても未来は変わらない。過去に戻れるのは、コーヒーをカップに注いでから、そのコーヒーが冷めてしまうまでの間……。
自分を置いてアメリカへ行く彼氏に、言いそびれた正直な思いを伝えようとする女性。若年性アルツハイマーで記憶を失っていく夫が自分に渡し忘れた手紙を受け取りに行く看護師の妻。家出した自分に代わって旅館を継いだ妹が交通事故死してしまい、生きているうちに死ぬ前には言えなかったある言葉を秘めた姉。自分の死を覚悟しながらもお腹に宿る娘に会いに未来へ行く喫茶店で働く妊婦。いずれも未来を変えられないと知りつつも時間を移動するが、そこには思わぬ奇跡が待ち受けていた。
ルールだらけのタイムスリップというユニークな仕掛けが予想外の感動を呼ぶ。(サンマーク出版 1300円+税)