違憲判決を下せない裁判所の異常な実態
今年3月に施行された安全保障関連法により、日本は“戦争ができる国”に変わってしまった。そして、多くの憲法学者が「違憲と言わざるを得ない」と声を上げているこの悪法も、裁判所が違憲判決を下す確率は限りなくゼロに近いという。いったいなぜなのか。
生田暉雄著「最高裁に『安保法』違憲判決を出させる方法」(三五館 1400円+税)では、元大阪高裁判事の著者が日本の裁判所の異常性について暴露。違憲判決を下せない実態について、過去の具体例とともに明らかにしている。
安倍首相が安保法の論拠として口にしていたのが、1959年12月の「砂川判決」だ。しかしこの判決自体、時の政権によってひねり出された憲法違反の最高裁判決である。東京地裁の伊達秋雄裁判長による、駐留米軍は違憲との判決に対し、国は高裁を飛び越えて最高裁へ“跳躍上告”を行い、わずか8カ月で逆転判決を下した。そして、安保条約の違憲性については「高度の政治性」を理由に、「司法裁判所の審査には原則としてなじまない」とされたのだ。
この判例が今日まで揺らぐことなく生き続け、さらには最高裁が下級裁判所を統制する図式までできあがってしまった。良心を持つ裁判官が、勇気を奮って正しい判決を書き上げた事例もある。
しかし、最高裁判例に盾突く結果となった裁判官に未来はない。前出の伊達秋雄裁判長は2年後に辞職しているし、2008年に自衛隊のイラク派遣違憲訴訟で違憲判決を出した名古屋高裁の青山邦夫裁判長は、判決公判直前に依願退職している。また、2015年に高浜原発3・4号機の再稼働差し止め判決を出した福井地裁の樋口英明裁判長は、名古屋家裁に左遷されているのだ。
絶望的な裁判所の実態に暗澹(あんたん)たる気持ちになるが、それでも積極的に裁判を利用すべきだと本書。主権者である国民が「知る努力」と「行動」を続けることしか、裁判所を正常化する道はないと説いている。