中国政府はウイグル・イスラムを封じ込めるか
「世界史の大転換 常識が通じない時代の読み方」宮家邦彦/佐藤優著 PHP新書 2016年6月
宮家邦彦氏(キヤノングローバル戦略研究所研究主幹)は、元外務省のキャリア官僚だ。宮家氏は、外務省でアラブ・スクール(アラビア語を研修し、対中東外交に従事することが多い外交官の語学閥)に属していたが、英語と中国語に堪能で、安保問題にも通暁していたので、外務本省で日米安保課長、在中国日本大使館参事官などの要職を歴任した。また、分析能力も卓越している。
本書では宮家氏と評者で、従来の常識が通じない新しい国際現象について、踏み込んで話し合った。米国のトランプ現象、プーチン露大統領の帝国主義政策、混迷する中東情勢や中央アジア情勢について新聞やテレビでは知ることができない興味深い情報を読者に提供することができたと自負している。
例えば中国のアキレス腱が新疆ウイグル自治区であるという見方で2人は一致している。
〈佐藤 IS(「イスラム国」)の影響が中央アジアに浸透しつつあるなかで懸念されるのが、この影響が中国の新疆ウイグル自治区に及ぶ危険性ではないでしょうか。カザフスタン、キルギスと新疆ウイグル自治区の国境は、十分に管理されているとはいえない。中国当局は、新疆ウイグル地区への漢民族の入植政策を強硬に推進し、ウイグル人の民族運動に対しては、弾圧政策で臨んでいます。その結果、ウイグル民族のあいだには、中国政府に対する反発が強まっている。
宮家 ウイグル族に対する共産党政権の厳しい取り締まりはイスラム過激派だけでなく、いまや一般イスラム教徒の信仰活動にまで及んでいる。しかし、中東を「後背地」とするウイグル・イスラム教は、チベット仏教のように中国国内で「封じ込め」ることが絶対にできません。中国政府指導部がイスラムをより正しく理解し、真の共存の道を見出さないかぎり、ウイグルは中国のアキレス腱でありつづけるしかないでしょう。〉
中国政府は、新疆ウイグル自治区に「第二イスラム国」が出来る脅威を過小評価している。最近、中国軍艦が尖閣諸島や口永良部島のわが国領海に侵入するといった挑発をしているが、冷静に考えれば、そのような余裕は中国にないはずだ。★★★(選者・佐藤優)