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青沼陽一郎

作家・ジャーナリスト。1968年、長野県生まれ。犯罪事件、社会事象などをテーマに、精力的にルポルタージュ作品を発表。著書に「食料植民地ニッポン」「オウム裁判傍笑記」「私が見た21の死刑判決」など。

オカルト現象の盲進者に高学歴者が多い理由

公開日: 更新日:

「反オカルト論」高橋昌一郎著 (光文社 740円+税)

 冷静沈着、鋭い観察力と知性によって謎を解く名探偵シャーロック・ホームズ。その生みの親である作者コナン・ドイルは、死者の霊と交信ができるという心霊現象を信じてやまなかった。それがトリックであると暴露されても、ずっと超常現象を信じ続けた。

 そんな意外な話から始まるこの本は、論理学・哲学が専門の大学教授によって、現代の「オカルト」の欺瞞性を説いたものだ。本文が“教授と助手”という会話形式で構成されているのも、ここに取り上げるオカルト事象をまともに相手にするよりは、むしろ漫談形式でツッコミを入れたい意思の表れだろう。読みやすく、欺瞞の実態が浮き彫りになる。

 教授と助手の会話で、もっともページが割かれているのが、今や「世界3大研究不正」のひとつとなったSTAP細胞事件についてだ。時系列に沿った具体的な事実に基づき、STAP細胞そのものをオカルトと呼び、小保方晴子氏を別次元の「お花畑」にいたと論破するあたりは痛快だ。

 個人的にあの騒動は、空中浮揚ができると言って、法廷の場で飛ぶこともできなかった麻原彰晃と同質と見ていたが、そのオカルト現象を盲信する高学歴者が多かったことは、いかに学問というものが妄想の前に無力であり、一般大衆が科学と信じるものに欺かれる恐ろしさを物語っている。

 それともうひとつ、私が不気味さを覚えること。

 2人の会話には、「霊は存在する」と公言している医師で東京大学教授の矢作直樹氏が登場する。著作はベストセラーだ。同氏は臨床現場での人の「死」に直面して、スピリチュアリズムに目覚めたのだという。

 地下鉄にサリンをまいた慶応大学の心臓外科医だった林郁夫は、それとまったく同じ理由でオウム真理教に入信している。

 本文中の2人の会話が指摘するように、“東大教授”の肩書が、死後の世界を肯定する自著の売り上げを伸ばしているのなら、その欺瞞は、たった独りでつくられるものではなく、小保方氏を生んだ理研や早稲田大学のように、研究機関や教育現場、彼らを利用するメディアの腐敗が生み出す一体化現象ではないだろうか。本著はそれを見過ごす緩慢な日本社会に警鐘を鳴らしている。

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