「哲学する子どもたち」中島さおり著

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保育学校から高校まで授業料の負担ゼロ

 安倍政権は1億総活躍社会を掲げ、女性の社会進出を成長戦略の柱に据えている。女性に働いてもらわないと、労働力人口の減少に歯止めがかからないからだが、その処方箋が託児所の充実程度では心もとない。この本によると、著者が暮らすフランスでは子供が3歳以上になると、公立の保育学校(幼稚園に相当)が預かってくれるのである。

「働きたい母親が託児所を探す必要がないのです。この保育学校全入制度がフランス女性の社会進出を支えています」

 さらに羨ましいのが、その費用だ。フランスでは保育学校入学から高校まで、公立に通えば、授業料の負担は一切ない。大学も公立に行かせれば、年に数万円の負担で済む。さらに小学校では授業が終わった後、親が迎えに来るまで子供を預かってくれるだけでなく、バレエや空手、チェスなどを教えてくれる先生が来てくれる。学校にいながら「習い事」ができるのだが、これがほとんど無料みたいなものだという。

「無料の自治体も多いし、有料の自治体も費用は世帯収入を考慮してくれるので、貧しい家庭ならば年間6ユーロくらい。高所得層でも70ユーロくらいで済むんです。フランスの全てに学べとは言いませんが、少なくともお金のかからない教育システムについては日本は大いに参考にすべきでしょう。フランスの場合、1881年に教育を宗教と切り離し、義務化、無償化し、すべての国民に同じ質の教育を無償で施すことにしました。この精神が今でもリスペクトされているので、教育につぎ込んでいる予算も多い。対GDP比で日本はOECD調査で32位ですが、フランスは倍以上のお金をかけています」

 もうひとつ、驚かされるのがフランスでは哲学の授業を重要視していることだ。宗教を排したフランスではすべての高校生が哲学を学ぶ。そして、日本の大学受験に当たる高校卒業試験=大学入学資格試験(バカロレア)では文系理系にかかわらず、凄まじい小論文が課せられる。日本の受験の丸暗記とは全く別物なのである。

「フランスが哲学を重視するのは共和国の基礎は自由に考える人間、市民であるというモンテスキューの思想が生きているからです。日常生活でフランス人がそれを意識しているかどうかはともかく、こうした教育はものの考え方や伝える力を養う。日本人もこういう教育をすれば、議論下手ではなくなるのではないか、と思います。もうひとつ、フランス教育は一般教養を非常に重視します。近現代史にも力を入れています。日本では大学で一般教養が軽視されていますが、これは世界的に見てもおかしなことだと思いますね」

 フランスの教育事情を紹介しつつ、「考える教育」のあり方のヒントが探れる一冊だ。(河出書房新社 1600円+税)

▽なかじま・さおり 1961年生まれ 早大、学習院大大学院を経て、パリ第3大学博士準備課程修了。「パリの女は産んでいる」で第54回エッセイスト・クラブ賞受賞。訳書に「ナタリー」「郊外少年マリク」など。

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