著者のコラム一覧
青沼陽一郎

作家・ジャーナリスト。1968年、長野県生まれ。犯罪事件、社会事象などをテーマに、精力的にルポルタージュ作品を発表。著書に「食料植民地ニッポン」「オウム裁判傍笑記」「私が見た21の死刑判決」など。

殺人にまで追い込まれる介護地獄の実態

公開日: 更新日:

「介護殺人」毎日新聞大阪社会部取材班著(新潮社 1300円+税)

 他人ならば起こらない。介護が必要な相手に見切りをつけられる。だが、愛する家族となると、そうはいかない。寄り添うからこそ起きてしまう悲劇。それが介護殺人だ。

 この本は、昨年12月から今年6月まで毎日新聞大阪本社発行版に掲載されたシリーズ企画をもとに、介護殺人を犯した当事者の声を集めたもの。そこにあるのは、殺人にまで追い込まれる介護地獄の実態である。

 例えば、認知症を患うと相手が誰かも忘れて、暴言を吐き、暴力を振るう。深夜に奇声を上げる。外を徘徊する。それでも排泄の世話をしなければならず、夜に複数回はトイレに連れて行く。もちろん、家事もこなす。年老いた体にはこたえる。これが連日続く。やがて疲労は蓄積し、寝不足になり、それがうつ病を誘発する。意思とは裏腹に、いつの間にか寄り添う相手の首を絞めていた……。このパターンが取り返しのつかない結末にたどり着いている。

 施設に入れようにも、余裕がないと断られ、また伴侶や父母の面倒は最後まで自分で見たいという愛情が、こうした事態を招き込む。

〈厚生労働省によると、2012年の国内の認知症患者は462万人(推計)。2025年には約700万人まで増え、高齢者の5人に1人が患者になると見込まれている〉

〈介護保険のサービスを利用するために必要な要介護・要支援の認定を受けた人は2014年度にはじめて600万人を突破した。厚生労働省が2016年6月に発表した606万人(2015年3月末時点)という数字は、介護社会の本格的な到来を証するものだ〉

 新聞報道らしく、書き込まれた具体的な数字が、暗澹たる気分にさせる。

 介護殺人は、裁判員裁判によって裁かれる。同制度がはじまって7年になるが、その傾向として性犯罪に対する厳罰化と、こうした事件の減刑が挙げられる。

 本書に登場する殺人者もほとんどが執行猶予が付いたり、2~3年の短い実刑で済んでいる。だが、これだけ介護殺人が後を絶たない中で、いつまでも同情判決が許容されていいものだろうか。介護制度の見直しを放置する国が、この現状を容認している。

【連載】ニッポンを読み解く読書スクランブル

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    兵庫県・斎藤元彦知事を追い詰めるTBS「報道特集」本気ジャーナリズムの真骨頂

  2. 2

    前代未聞の壮絶不倫・当事者のひとりがまたも“謎の欠場”…関係者が語った「心配な変化」とは???

  3. 3

    今田美桜「あんぱん」に潜む危険な兆候…「花咲舞が黙ってない」の苦い教訓は生かされるか?

  4. 4

    柴咲コウの創業会社が6期連続赤字「倒産の危機」から大復活…2期連続で黒字化していた!

  5. 5

    男性キャディーが人気女子プロ3人と壮絶不倫!文春砲炸裂で関係者は「さらなる写真流出」に戦々恐々

  1. 6

    高嶋ちさ子「暗号資産広告塔」報道ではがれ始めた”セレブ2世タレント”のメッキ

  2. 7

    世耕弘成氏「参考人招致」まさかの全会一致で可決…参院のドンから転落した“嫌われ者”の末路

  3. 8

    「羽生結弦は僕のアイドル」…フィギュア鍵山優真の難敵・カザフの新星の意外な素顔

  4. 9

    「フジテレビ問題」第三者委員会の報告会見場に“質問できない席”があった!

  5. 10

    「Nスタ」卒業のホラン千秋にグラビア業界が熱視線…脱いだらスゴい?