「富める親」と「持たざる子供」の格差が家族を崩壊
不況が続く現代日本の家族問題を明らかにする、信田さよ子著「家族のゆくえは金しだい」(春秋社 1700円+税)。身も蓋もないタイトルだが、家族の維持には金が必要という単純な話ではなく、“富める親と持たざる子供”という格差によって、家族の関係が崩壊しつつあると警告している。
カウンセラーである著者は、1980年代から依存症や引きこもりの子供を持つ家族の問題を解決に導いてきた。これらの家族には、「イネーブリング(enabling)」という共通のキーワードがあるという。直訳すると「可能にする」「助長する」という意味で、子供の依存症も引きこもりも、親に金があるから続けられること。子供の問題行動に悩みながらも金を出し続ける親のことを「イネーブラー」と呼び、問題の助長者と捉えてきた。
イネーブリングの問題は、親が高齢になり、子供が中年になっても変わらない。むしろ長引く不況で、近年ますます顕著になっているという。2015年に明らかになった振り込め詐欺の被害額は全国で550億円に上っているが、これは高齢者がいかに経済力を持っているかを示す数字でもある。
このような状況下、富める親は心のどこかで後ろめたさを感じ、持たざる子供を金銭的に援助するのは当然だという気持ちが働く。持たざる子供も、親の援助を頼みの綱にするようになるが、一方で強烈な劣等感も生み出す。これに蓋をするのが「金=愛情」という置き換えだが、やがて親の財産を食いつぶしたり、要求と暴力が一体化して事件化にも発展しかねない。
今、50代の子供が80代の親に金を無心し、出さないと暴力をふるうなどの事例があまりに多く、ケアマネジャーなど介護の専門職の間で問題視されているという。
しかし、富める親が子供に金を渡さないでいられるかは、貧しい親が子供に必死で与えることよりも、はるかに困難なテーマだと本書。第三者の介入により、親の方から子供と距離を置くなど、問題解決の糸口も探っていく。