「ヘダップ!」三羽省吾著
サッカー小説である。ただし、舞台がJFLなので、これまでのサッカー小説とは少しだけ異色の展開になる。
主人公は高校を卒業してJFLのチームに入った桐山勇、18歳。J1の古豪チームから一度は内定をもらったものの、契約直前に白紙になり、仕方なくJFLに。それだけでも落ち込んでいるのに、本来のFWではなくボランチ起用。さらにチームの面々とも話が合わないから落ち込む一方だが、そこでさまざまな人と会い、彼は大人になっていく。つまり、これは成長小説だ。
その意味では珍しいものではないが、舞台がJFLということで、その特殊な環境が物語に効いてくる。JFLというのはJ1、J2、J3ときて、その下のカテゴリーである。JFLのチームには、観客の誘導やチケットのモギリやグッズの販売などを無償で手伝うサポーターがいるのだ。
彼らが働くのは、試合を観戦できないような場所である。試合の様子は、あとでサポーター仲間が撮ったDVDで見る。せっかく選手たちのすぐ近くにいるのに、生で試合を観戦できないというから驚く。そういう熱心なサポーターにJFLのチームは支えられている、ということだろう。
サッカーの試合の様子も迫力満点に描かれるので興味は尽きないが(そこは三羽省吾、やっぱりうまい)、そのサポーターたちの無償の行為に、一番感動する。(新潮社 1600円+税)