「処刑の丘」ティモ・サンドベリ著、古市真由美訳
相変わらず北欧ミステリーの翻訳が続いているが、このブームのおかげでこれまで知らなかった作家、作品を読むことが出来るのは喜ばしい。本書もそういう一冊だ。
フィンランドのミステリーはレーナ・レヘトライネンの諸作がすでに紹介されているので本書が初ではないが、この作家は本邦初紹介。デビューは1990年というからもうベテランである。
本書の舞台は、フィンランド南部の都市ラハティ。時代は、1920年代。この舞台設定が本書のキモだろう。というのは19世紀初頭から帝政ロシアの大公国だったフィンランドは1917年に独立を宣言するものの、ロシアのボリシェビキの支援を受けた赤衛隊と、ドイツの軍事力を後ろ盾にした白衛隊との間で戦闘になり、内戦状態になったとの経緯があるので(ヨーロッパでもっとも悲惨な内戦だったといわれているらしい)、いまだにその爪痕が残っているのだ。
主人公の警官オッツォ・ケッキはどちらにも所属せず支援せず、あくまでも公正な警察官であろうとするが、内戦の勝利者である白衛隊が絶対的な権力を握る社会で、公正であり続けるのはなかなか難しい。かつて虐殺の舞台となった丘で青年の死体が発見されるのが本書の発端だが、上からの圧力で自由な捜査が出来ないのである。そのケッキの苦悩と地味な捜査を、本書は静かに描いていく。
異色の警察小説として読まれたい。(東京創元社 1900円+税)