「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀氏
青春小説としても、また音楽小説としても楽しめるが、著者の深奥な知識と緻密な取材によって描き出される風景は、あまりにも重厚で衝撃的だ。主人公たちの目を通した、戦争の狂気や滑稽さを嫌というほど突きつけられる。
主人公のエディは、軍需会社の経営者を父に持つお坊ちゃま。ヒトラー・ユーゲントの活動に参加しながらも、やぼくさいシャツと半ズボンを着せられ、国歌を歌いながら行進させられる毎日に、心底うんざりしている。やがて、ピアノの天才であり8分の1がユダヤの血をひくマックスや、ヒトラー・ユーゲントのスパイをさせられているクー、国防軍の英雄を父に持つ上級生のデュークらと共に、ジャズの魅力に取りつかれていく。
「体制に反発する彼らですが、秘密国家警察であるゲシュタポが彼らを取り押さえ、収容所送りにするような処罰が行われた例は、あまり多くはなかったようです。表向きの指令は下っていても、現場はそれほどナチに傾倒してはいなかったとも考えられます。しかし、ハンブルクにおいては富に支えられた“悪ガキ”どもの傍若無人ぶりが他の都市とは一線を画していたこと、そして1942年以降ゲシュタポのトップが非常に狂信的なナチに代わったことなどから、徐々に追い詰められ、大摘発を受けたんです」