「スウィングしなけりゃ意味がない」佐藤亜紀氏
享楽的な青春の日々も長くは続かず、やがてエディも摘発を受けて鑑別所送りとなり、戦地への志願を拒否したことで過酷な罰を受ける。目の前で次々と人が死んでいくさまを目の当たりにし、ますます体制への反発心を強めるエディ。ナチの行いにより、ただの悪ガキが筋金入りの反ナチになっていく描写が見事だ。
「ハンブルクは、町の4分の3を焼き尽くすほどの爆撃を受け、やがて終戦を迎えます。しかし、それですべてが解放されたわけではなく、戦後のドイツを生き抜くのは、そうたやすいことではなかったようです。実際のスウィング・ユーゲントの中には、米国へ移住した人も多いと聞きます」
本作では各章に対応するジャズが設定されており、すべてネットでの視聴が可能だ。世界が戦争へとひた走る歪んだ時代に生きた若者たちの物語。ジャズの名曲と共に読み進めてみては。(KADOKAWA 1800円+税)
▽さとう・あき 1962年新潟県生まれ。91年「バルタザールの遍歴」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞し作家デビュー。2003年「天使」で芸術選奨新人賞、07年「ミノタウロス」で吉川英治文学新人賞を受賞。著書に「鏡の影」「醜聞の作法」「吸血鬼」など多数。