「いま蘇る柳田國男の農政改革」山下一仁著
日本民俗学の祖として有名な柳田國男だが、官僚としても長く活躍した。官僚のスタートは農商務省(現在の農林水産省と経済産業省)で、農務官僚として農民の生活向上のためにさまざまな提言をなしたが、それらの提言はあまりに水準が高く、時代を先取りしていたため、当時の農政・農業界からことごとく無視された。しかし、今こそその考えを活用すべき時期なのではないか? 本書は、現在の農政・農業問題を解決する指針として農政学者・柳田國男に新たに光を当てたもの。
不在地主を帰農させ、小農業から中農業へ転換し、余剰の労働力を他の産業に振り向ける。農業機械の共同利用、農家相互間の金融等を行う産業組合の活用。効率のいい耕地の集団化、連担化といったものが柳田の構造改革案だが、これらは地主制=小農主義という明治以来の農業政策と真っ向から対立するもの。農水省出身の著者は、近代日本の農政が陥った病弊を暴き出し、柳田の改革案をてことして農政改革の抜本的な提言をなす。
(新潮社 1600円+税)