「ゴリラからの警告」山極寿一著

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 農耕牧畜の出現以降、産業革命や情報革命を経て、人工的な環境で暮らすようになった人間という種。五感や体を使うことより通信機器を通じて頭でつながることを重視するようになった結果、その変化に人間の体と心がついていけず、さまざまな問題が起きている。本書は、長年ゴリラ研究を通じて人間の起源を探ってきた著者による、ゴリラの目から見た人間社会の実情に迫った警告の書。日常の中にヘイトスピーチが入り込み、形ばかりの民主主義国家に変質する共同体や国家の問題点にまで言及していく。

 たとえば、ゴリラの世界ではオスを中心に数頭のメスと子どもで群れをつくっている。

 オスの体重はメスよりも2倍近くあるが、必ずしもリーダーの後を他のゴリラがついていくわけではない。互いにブウブウとうなりながら行きたい方向を示し、希望の多い方向へと群れが誘導されていき、それがゴリラの社会の民主主義なのだという。

 一方の人間はどうか。議会機能が低下し、情報共有がなされず、政治的な駆け引きや暴力的な解決策が優先される今こそ、ゴリラに学ぶべきではないかと警鐘を鳴らしている。 (毎日新聞出版 1400円+税)

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