「世界で一番美しい病原体と薬のミクロ図鑑」コリン・ソルター著、石黒千秋訳
何も知らずにページを開いたら、きっと現代アートかアートフラワー関連の画集や写真集と勘違いすることだろう。この冬、猛威を振るったインフルエンザやはしか、風疹などの伝染病をもたらすウイルスや細菌などの病原体を顕微鏡写真で紹介する大判図鑑だ。
強烈な痛みで七転八倒の苦しみをもたらす腎結石の結晶は、まるでシャクヤクの花びらのよう。他にも、大腸がん細胞や乳がん細胞は、海中を彩るサンゴ礁のようにも見え、一方の中年男性が怯える前立腺がん細胞は、触手を伸ばしたクラゲのようで、がん細胞にもそれぞれに個性があることがよく分かる。
そんな慢性疾患の病原体を紹介したのちに、いよいよウイルスへ。
凶悪なエボラウイルスはナスカの地上絵。1970年代に人類が撲滅に成功した天然痘ウイルスは、まるでかんぴょう巻きの断面のように見える。
今流行中のはしかウイルスがほかの細胞に感染するため、宿主細胞を破壊して出てくるさまを撮影したリアルな写真などもある。
14世紀に世界人口の3分の1を死に至らしめたペスト菌に感染したネズミノミの体表のとげの拡大写真などは、写真といえども身の毛がよだつ。
こうした恐ろしい病原体だけでなく、雪の結晶のような女性ホルモン「エストラジオール」や、綿毛をまとった植物を連想させる抗生物質のストレプトマイシン、宇宙の小惑星にも見えるバイアグラやアスピリンなどの薬の結晶も紹介。
私たちに病気をもたらす病原体の正体を知ったところで、脅威が減るものではない。しかし、目に見えない敵ほど恐ろしく感じるものはない。本書は、そんな敵を正しく知って、正しく恐れるための格好のテキストとなってくれるに違いない。
(エクスナレッジ 2400円+税)