「吉田謙吉と12坪の家」 布野修司ほか著

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 吉田謙吉氏(1897~1982)は、大正、昭和に活躍した舞台美術家。大正13年に設立された劇団「築地小劇場」の創立メンバーでもある。

 その活動は、演劇だけに収まらず、装丁や文筆など、さまざまなジャンルに及んだ。本書は、そんな氏が昭和24年に自ら設計して建てた独創的な家を紹介しながら、吉田氏の創作の秘密に迫るビジュアルブック。

 終戦後、新築住宅の面積上限は12坪(約40平方メートル)以下に制限されていたため、当時の吉田氏は必然的に、12坪の家しか建てられなかったのだが、その家は「常に生きることを楽しんだ」という氏の工夫と夢が詰め込まれた唯一無二の家となった。

 最大の特徴は家の中に設けられたステージだ。画家がアトリエを持つなら「われわれ演劇人が、そして舞台装置家であるぼくの家にステーヂがあって不思議はあるまい」と氏はその理由を語っている。ステージでは舞台美術製作の作業を行うほかに、落語会や、のみの市なども催されたという。

 氏が描いたスケッチや写真で、その家の細部を紹介。バーや喫茶店気分が味わえるカウンターテーブルや、庭でテラス代わりに朝食や接客に使用したという自作タープなど、暮らしを楽しむ工夫が随所に見られる。

 常に何かを生み出すことに夢中だった氏は、関東大震災直後には仲間の若手芸術家らと「バラック装飾社」なるものを結成。震災後にありあわせの建材で建てられたバラックをペンキなどで色鮮やかに装飾して回り、街を活気づけていった。さらに急速に変わりゆく街の風俗の記録を続け、今に伝わる「考現学」を生み出している。12坪の家には、本業の舞台美術をはじめ、こうしたさまざまな活動、仕事が凝縮。家を通して、ひとりの芸術家の足跡をたどるお薦め本。

(LIXIL出版 1800円+税)

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