「観光亡国論」アレックス・カー、清野由美著
訪日外国人が増え続けている。2011年には年間622万人だったのが、18年にはついに3000万人を突破。政府が目標に掲げる4000万人の達成も現実味を帯びてきたが、一方で観光客が急増したことにより、「観光公害」ともいうべき現象も起きているという。
特に顕著なのが京都。朱塗りの鳥居が連なる伏見稲荷大社や、美しい禅庭で知られる東福寺などの、いわゆる「インスタ映え」するスポットには観光客が大挙して訪れ、今や参拝することもままならない状況になっている。
そんな現状に警鐘を鳴らすのが本書だ。著者は東洋文化研究家のアレックス・カー氏。アメリカ出身だが、来日歴は55年と長く、1980年代から日本の文化や観光の振興に取り組んできた。
多過ぎる訪問客は周辺環境を悪化させ、住民の生活を脅かす。これは世界的な問題でもあり、「オーバーツーリズム」という用語が国連世界観光機関により定められているほどだ。
対応策を考える上では海外の事例が参考になる。ペルーのマチュピチュ、インドのタージマハルといった世界に名だたる観光地では入場規制が行われている。キャパシティーを超えたら、そもそも受け入れないという断固たる体制を取っているわけだ。
あるいは、入場料を引き上げるのも有効だという。富士山では現在、5合目以上に登る人に対して、任意で1人1000円の支払いを求めているが、強制ではないため支払わない人も多い。登山道に大行列ができるほどの現状に鑑みれば、この入山料を義務化した上で、料金を7000円にまで引き上げる必要があると著者は説く。
「富士山が7000円か……」
テーマパーク並みの金額に絶句するが、氏の主張も筋は通っており、それだけ事態が深刻ということなのだろう。(中央公論新社 820円+税)