「汚染水海洋放出の争点」渡辺悦司ほか著
SDGsの目標14に掲げられている「海の豊かさを守ろう」。2021年4月、日本政府はこれに逆行するような決定を下した。福島原発事故で増え続ける、放射性物質「トリチウム」を含む処理水の海洋放出だ。
本書では、政府による「廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議」の文書の嘘を暴きながら、トリチウムの危険性や汚染水による海洋汚染の問題点を明らかにしている。
政府文書によるトリチウムの主な規定は、①弱い放射線を出す放射性物質②雨水や海水など自然界にも広く存在している③多核種除去設備では除去することが困難、などだ。しかし、これらは虚偽であると本書は一刀両断する。
まず①の「弱い」という表現は、まるで危険性がほとんどなく無視できるということを示唆したいように見える。しかし放射線物理学的に詳しく言えば、これはエネルギーが低く飛距離が短いということ。そして、このような特徴を持つ放射線は周囲の分子に対して反応性が高く、生物学的危険度はかえって高いのだ。
さらに、②に関しては核保有国が行ってきた大気圏核実験などの残存物であり、自然界という言葉を用いた印象操作に他ならず、③は別の回収技術が存在するのに検討していないことの表れだという。
他にも、政府と政府側の専門家の言説には、虚偽が多いと本書。環境中に放出しても無限に希釈されて濃縮も生物濃縮もされないといわれているが、実際には多孔質の粘土や砂の粒子に吸着され、植物性プランクトンから始まる生態系の中で濃縮されるという。そして有機物とも親和性があるため、人体にも侵入すると警告している。
汚染水の海洋放出は本当に実行されてよいのか。真実を見極めたい。
(緑風出版 2970円)