「おんなの女房」蝉谷めぐ実著
武家の堀田の家に生まれた志乃に縁談がきて、歌舞伎の女形である喜多村燕弥に嫁ぐことに。燕弥は家でも振り袖を着て、化粧をし、女の姿でいる。田楽を食べるときは箸で細かく刻み、口元を隠して食べるが、そのしぐさの美しさが志乃には恐ろしいほどだった。女の自分より美しい女が目の前にいるのを見て、志乃は、自分は何のためにこの家にいるのだろうと思った。部屋の隅にすえた飯があったので捨てたら、それは舞台で使うつもりだったと燕弥に怒鳴られた。
志乃はいつ三くだり半を渡されるかびくびくしていたが、ある日、気がついた。この人は武家の娘、時姫のしぐさを学ぶために私と一緒になったと。
芸のために日常生活も捧げる役者夫婦の葛藤を描く。
(KADOKAWA 1815円)