オトコはつらいよ
「男が心配」奥田祥子著
「性別役割」を規定するジェンダーへの意識が高まるにつれ、オトコ中心社会のほころびが目立っている。
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男性問題といっても世代や立場や経歴などによって違いは大きい。読売新聞記者から大学でジャーナリズムを教える立場に転身した著者は、「女性活躍」の掛け声の陰で進む男性問題に20年以上関心を抱いてきた。その手法が長期間のインタビュー取材。対象になる男性と取材を通して信頼関係を築き、5年、10年の年月をかけてじっくり話を聞く。
テーマは「男のプライド」や「モテ信奉」「定年後幻想」に「イクメン神話」等々と、まさに現代の男たちの前に立ちふさがる問題の数々。最初はイケイケの自信たっぷりで「結婚できないんじゃない」「結婚しないだけですから。最初にその点を押さえておいてくださいよ」と豪語した「高スペック男」が婚活に失敗し、職場では後輩へのパワハラで出世の道を閉ざされ、やがて両親も他界。最初の取材から20年近くが経った今は、両親も亡くなり、「もう誰も、ぼくのことなんかに関心がない」とため息をつく54歳になっているという。
取材相手の心のひだを読み取ろうとするジャーナリストの細かな配慮と注意力で、現代の男たちが直面するさまざまな困難が明らかになる。
(PHP研究所 1100円)
「お嬢さんと嘘と男たちのデス・ロード」北村紗衣著
専門はシェークスピア文学の英文学者で最近はフェミニスト評論の若手として活躍の著者。映画や演劇にもくわしいことから物語を素材に、ジェンダーとセクシュアリティーをめぐる現代の問題に迫る一方、「ファンダム」とよばれるオタク系のファン文化のはらむ危うさにも肉薄する。
映画「マイ・プライベート・アイダホ」に受けた影響の深さを吐露し、「スター・ウォーズ」シリーズに熱狂するファンに「忖度しすぎた」映画「スカイウォーカーの夜明け」を切り捨て御免で批判する。
単純なオトコ社会批判にとどまらず、ジェンダーやフェミニズム批評が世の中をどう見ているかがわかる「入門書」。
(文藝春秋 1760円)
「どうして男はそうなんだろうか会議」澁谷知美、清田隆之編
ジェンダー論の専門研究者と恋愛相談のサイトやイベント、ネットラジオなどを主宰する「恋バナ収集ユニット」の代表者が組んで、いろいろな男たちと座談する。
話題の核心は多くが男たちの鈍感さだ。電車の中で大股開きで座る、リベラルでものわかりがいいとされている男ほどジェンダー問題にはうとい。
また、DV男がしばしば「ただの夫婦喧嘩だ」と言い訳したり、「妻のほうが俺に暴力をふるわせた」と言い出す例などは、自分ではなく相手に非があると思っている証しだという指摘では「まず加害者にきちんとなる」ことが大事だという。自分が加害者であることを認めるところから始めようということだ。
座談のゲストはベビーブーム世代からポスト団塊ジュニア世代まで。オトコの神話から抜け出す方法の参考になる。
(筑摩書房 1650円)