エコ時代の農と食

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「土を育てる」ゲイブ・ブラウン著 服部雄一郎訳

 いまや気候変動対策は待ったなし。そんな時代の農と食を考える。



 長年、化学肥料で傷めつけられてきた土は回復力がないといわれる。本書の著者は米ノースダコタ州で2000ヘクタールの農場・牧場を、妻と息子の3人で営む。化学肥料や農薬を使わず、農地を耕さずに作物を栽培する不耕起栽培をつらぬき、世界中から毎年数千人が見学に訪れるという。

 大事なのは「土の再生」。第1の原則は土をかき乱さない。耕すと土壌の構造が崩れてしまうのだという。さらに土を覆い、多彩な品種で多様性を高め、土中に「生きた根」を保持。そして、家畜を農作に組み込んで、動物に食べさせると土が刺激を受けて活性化するのだという。これが大気中の炭素や窒素を地中に取り込むための5つの原則。

 農業分野における気候変動対策の「カーボン・ファーミング」として、今注目を集めるのが著者の進める「環境再生型農業」(リジェネラティブ農業)なのだ。

 豊富なエピソードであくまで具体的。エコ関係の本には精神論が目立つものもあるが、本書はあくまで実際的でしかも深い。農場の一部は放牧用の多年生の牧草地にしており、牛、羊、豚、鶏などを多数飼育しているのは土のためと収入の多角化のため。まさに実践的で持続可能なエコ農業の勧めである。

(NHK出版 2420円)

「世界の発酵食をフィールドワークする」横山智編著

 微生物の作用によって有機物が分解される。この作用が「腐敗」。そのうちで人間に有用なものを取り分けたのが「発酵」だ。この調理法を人類がいつ発見したかはわからない。だが、パンやヨーグルト、ビールなどは世界各地のどこにでもあって、どの文化圏でも好まれている。

 しかし他方で、ナレズシ、くさや、キムチなど、特定の地域だけで熱狂的に愛される発酵食品もある。本書は農学や生物学、人類学などの専門家が手分けして世界の発酵食を紹介する。

 エチオピアやカンボジア、ラオス、モンゴルなどディープな異文化が次々に現れる。

 塩と米麹をまぜて熱帯気候の中で半年から1年。ペースト状になった魚醤はベトナムならニョクマムだろうが、ラオスではパデークというのだそうだ。

 日本の味噌醤油にも一脈通じるアジアの調味料はいずれ日本でも定着するかもしれない。シロウト向けのガイドではないが、異文化に興味を持ったり家政学部をめざす高校生レベルならおもしろく読めるはず。

(農文協 2090円)


「自然を喰(は)む 草喰(そうじき)なかひがしの食べ暦」中東久雄著

「京都で最も予約がとれない」と評判のミシュラン2つ星の京都の名店。それが「草喰なかひがし」だ。毎朝、山で摘んだ季節の草花や旬の野菜。その「声」を聴くのが同店の店主で本書の著者。古希を迎え、雑誌連載を一冊にまとめたのが本書だ。

 店のある銀閣寺道は観光客で年中にぎやか。しかし夜になるとひっそりする。

 その夜桜のイメージをもとに、白のウドを赤カブ酢漬けの汁で染めたのが4月の八寸(茶懐石の前菜)。まさに目で味わう日本料理の神髄を表す発想だろう。

 歳時記のように季節ごとの食材や料理を紹介する文章は滋味にあふれ、読んでいるだけで夢心地に誘ってくれる。

(ホーム社 1870円)

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