「タクジョ! みんなのみち」小野寺史宜著
永江哲巳はタクシー会社の採用課に勤務している。入社4年目だ。同じ課の2歳上の先輩鬼塚珠恵を「飲みに行きませんか」と誘うくだりが3番目の短編「六月十六日の大井町 永江哲巳」に出てくる。その飲みの席で「僕と付き合ってくれませんか」と告白すると、「いいよ」と軽く言われるので、「いいんですか?」と永江はびっくり。そのときの鬼塚珠恵の返事がいい。
「いいよ。初めからそういうことだろうと思っていたし。言われたら付き合うつもりでもいたし。だからね、この店に来てから、早く言ってよ、とずっと思ってた。そうじゃないと落ちついて飲めないから」
本書はタクシー会社を舞台にした連作小説で、この永江哲巳、鬼塚珠恵以外はすべてドライバーである。
「タクジョ」というのは、女性ドライバーの高間夏子が狂言まわし役になっているからで、本書では彼女以外にも霜島菜由という若い女性ドライバーが登場する。タクシードライバーの、さまざまな日常と意見を描く連作集なのである。
同じタクシー会社を描いた「タクジョ!」という連作に続く第2弾だが、続いているわけではないので、これを読んで面白ければ遡ればいい。高間夏子がかご抜け詐欺(ようするに料金踏み倒しだ)に遭った顛末はその前作に出てくる。前作も面白かったが、この新作も相変わらず快調である。
(実業之日本社 1870円)