著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「タクジョ! みんなのみち」小野寺史宜著

公開日: 更新日:

 永江哲巳はタクシー会社の採用課に勤務している。入社4年目だ。同じ課の2歳上の先輩鬼塚珠恵を「飲みに行きませんか」と誘うくだりが3番目の短編「六月十六日の大井町 永江哲巳」に出てくる。その飲みの席で「僕と付き合ってくれませんか」と告白すると、「いいよ」と軽く言われるので、「いいんですか?」と永江はびっくり。そのときの鬼塚珠恵の返事がいい。

「いいよ。初めからそういうことだろうと思っていたし。言われたら付き合うつもりでもいたし。だからね、この店に来てから、早く言ってよ、とずっと思ってた。そうじゃないと落ちついて飲めないから」

 本書はタクシー会社を舞台にした連作小説で、この永江哲巳、鬼塚珠恵以外はすべてドライバーである。

「タクジョ」というのは、女性ドライバーの高間夏子が狂言まわし役になっているからで、本書では彼女以外にも霜島菜由という若い女性ドライバーが登場する。タクシードライバーの、さまざまな日常と意見を描く連作集なのである。

 同じタクシー会社を描いた「タクジョ!」という連作に続く第2弾だが、続いているわけではないので、これを読んで面白ければ遡ればいい。高間夏子がかご抜け詐欺(ようするに料金踏み倒しだ)に遭った顛末はその前作に出てくる。前作も面白かったが、この新作も相変わらず快調である。

 (実業之日本社 1870円)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動