固定化する格差

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「カースト アメリカに渦巻く不満の根源」イザベル・ウィルカーソン著 秋元由紀訳

 世界中で格差と差別が拡大し、固定化する一方の現在。未来はどうなるか。



 カーストといえばインド伝統の悪名高い身分制度。ところが本書は、それがアメリカに存在するという。

 といっても黒人女性として初めてピュリツァー賞を受賞したジャーナリストの著者は、単に経済格差問題などに切り込むわけではない。著者が最初に「カースト」をアメリカの話に使ったのは奴隷制から逃れた南部の黒人たちが北部に移住した歴史に触れたとき。アメリカの黒人差別は、インドの不可触民差別やナチのユダヤ人差別と同根のものと見るのである。

 著者は「人種差別主義」という単語は使わないという。なぜなら「その言葉では不足」だから。単に人を蔑視することでは済まず、差別に反対するリベラルな人の内面にまで「上級」と「下級」を分け隔てる文化が染みついている状態を「カースト」と呼ぶわけだ。

「カーストは人知れずそこにあるもので、憎悪とは異なり、必ずしも個人に関わるものでもない」「カーストは心地よい日常と、考えもせず当然と思っていることによってよく刻まれた轍、(略)当たり前の決まりごとのように見えるようになった社会秩序のパターンなのである」という指摘が鋭い。

(岩波書店 4180円)

「クレプトクラシー 資金洗浄の巨大な闇」ケイシー・ミシェル著 秋山勝訳

 経済格差が固定化する理由の一端は、勝ち組が優位を利用して脱法行為にも手を染めやすくなるからだ。

 本書は世の富裕層や権力者が国際的なネットワークを通じて、闇取引にも等しい資金洗浄をおこなってきた実態を告発する。かつて資金洗浄による脱税は、ケイマン諸島やセーシェル、バハマ諸島など南国の「オフショア」を租税回避の舞台に利用するのが常識だった。しかし、著者によると近年はアメリカが巨大な舞台になっているという。経済格差はアメリカでも巨大都市への集中と地方都市の没落を招いたが、特にクリーブランドのような衰退した地方都市に目をつけて不動産を買い漁り、地元の財界をぬか喜びさせる手法が大々的に繰り広げられてきた。いまウクライナはロシアと戦争状態だが、少し前まではウクライナのオリガルヒ(新興財閥)がプーチンの庇護の下で、アメリカ人を代理人にしたクリーブランドの買い漁りをおこなっていたのだ。

 米国外からの政治介入と資金洗浄を調査報道するジャーナリストである著者が、驚くような実態を次々に暴く。

(草思社 3080円)

「中二階の原理 日本を支える社会システム」伊丹敬之著

 バブル崩壊で萎縮し、リーマン・ショックでまた萎縮し、さらにコロナ禍で自粛から萎縮への転落を余儀なくされたニッポン。いまの悩みは国内における経済格差に加え、国際的にも「国民1人当たりGDP」から「ジェンダー多様性指数」まで国際格差の下位に甘んじていることだ。一体どうすればいいのか。

 本書は元一橋大教授の著者が、建物の1階と2階の中間にある「中2階」の比喩で日本企業の経営戦略から国民性までにわたる「日本を支える社会システム」の効用を論じたもの。

 たとえば、コロナ対策として日本政府は公的な禁足政策を避けたが、社会の側が「自粛」という態度を半公的なしくみにしたのが実例。企業でいえば経営トップの理念や目標が2階なら現場の現実が1階。2階の目標をすみやかに果たすためにも、双方のあいだを媒介するしくみとして中2階を活用できるというわけだ。この社会体質を強みとして活用し、沈滞から脱出しようと説く本書。

 とはいえ日本の真の問題は「2階」に当たる傑出したリーダーの不在にあるのかもしれない。

(日本経済新聞出版 1980円)

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