地球環境まったなし
「地球をハックして気候危機を解決しよう」トーマス・コスティゲン著 穴水由紀子訳
エジプトで開催された国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)。なんと日本は「対策に最も後ろ向き」として表彰されてしまった! まったなしの気候変動問題は地球全体の課題だ。
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ちょっと目を引く書名だが、原題は「ハッキング・プラネット・アース」つまり「地球という惑星をハッキング」の意味だ。
地球温暖化対策はもうまったなし。これまでのエコ活動や、政治折衝ばかりで一向に進まない、ちまちました温室効果ガスの削減案などではらちが明かない。いっそ地球を丸ごと乗っ取るように、スピーディーで抜本的な対策をすべきときだ、という著者はアメリカの環境問題ジャーナリスト。世界各地の学者や専門家たちの取り組みを精力的に取材し、斬新で革新的なアイデアを紹介したのが本書だ。
たとえばスイスの物理学者は高出力レーザーで雨を降らせる実験を手がける。それに対して「自然を操作するのは正しいことか」と予想される問いが批判的に待ち受ける。しかし著者は現代の自然はもはや「自らの仕事を効果的に行うことができない」という。人間は既に「あまりにも地球を汚し、あまりにも地球から多くを奪ってしまった」からだ。それゆえ、いままでのようなスローな取り組みでは微温的に過ぎるのだ。それほどに危機感はあらわなのである。
(インターシフト 2530円)
「山火事と地球の進化」アンドルー・C・スコット著 矢野真千子訳
近ごろ頻繁に伝えられるのが北米の山火事。いったん火を出すと消防隊員も手をつけられず、何日も燃え盛って甚大な被害を出す。
本書の著者はイギリスの古植物学者。それがなぜ山火事の本を? 実は3億年前に火事で木炭となった針葉樹の葉について調べた研究が著者の学者としての出発点。以来、40年にわたり、火事が地球の歴史に残してきた痕跡を植物とその化石、石炭化した地質についての研究を重ねてきたのだそうだ。本書の口絵にも、3億3000万年前の石炭紀前期の堆積層から見つかった木炭を電子顕微鏡で撮影した写真などが多数掲載され、まったくのシロウトでも興味深く読める内容になっている。
大方の読者には山火事といってもピンとこない向きも多かろうが、実は日本でも年に1000件規模で山火事は発生している。そう思うといっそう興味深く読めるだろう。
(河出書房新社 3190円)
「雨、太陽、風」アラン・コルバン編 小倉孝誠監訳
編者はフランスきっての歴史学者として知られるアナール学派の大家。自然環境に対して人間社会が抱く印象や感覚に注目した「感性の歴史」を提唱したことで何より知られている。そんな人が同業の若手研究者を率いて、18世紀から現在までを舞台に雨、太陽、風と嵐、雲と霧、雷雨などの気象を各章に割り当て、気候と人間の関わりについての興味深い論考をずらりと並べたのが本書だ。
雲と霧は似た現象だが、フランス語で「雲のなかにいる」は「夢想に浸っている」の意味なのに対して、「霧のなかにいる」は「訳がわからない」と対照的な意味合いになる。しかし、美術の歴史で「風景画」が独立したジャンルとなる18世紀以降、霧はフリードリヒ、ターナー、モネといった画家たちに愛され、神秘的に描かれてきた。
SDGsの現代にふさわしく、ゆったりした読書にふさわしい文化史である。
(藤原書店 2970円)