「言語の本質」今井むつみ、秋田喜美著
「言語の本質」今井むつみ、秋田喜美著
ぴえん、ぱおん、きゅん……いずれも最近使われるようになったオノマトペだ。オノマトペとは擬音語、擬態語のことで、その定義は「感覚イメージを写し取る、特徴的な形式を持ち、新たに作り出せる語」で、まさに日々新たに作られている。言語学において、オノマトペはどちらかといえば周辺的なテーマだったが、近年、言語の起源と言語の習得の謎を解明するための重要なテーマとして脚光を浴びているという。本書は、オノマトペを手掛かりに、認知・発達心理学(今井)と言語学(秋田)の双方の観点から「言語の本質とは何か」という大問題に迫ったもの。
擬音語、擬態語というように、オノマトペはその語形や発音の類似性を頼りに感覚イメージを写し取り、各言語、独特の音象徴の体系を形作っている。さらにそこへジェスチャーや表情などの視覚的なものも加わりアイコン性が高度に体系化されている。
また、オノマトペは言語的な特徴を持つ一方で、アイコン性という非言語的な性質を併せ持つことから「ことばの意味を理解するためには、まるごとの対象について身体的な経験を持たなければならない」という記号接地問題にもつながっていく。つまり、記号を別の記号で表現するだけで身体に根ざした(接地した)経験がないAIが、本当にその言葉の意味が理解できるのかという問題だ。これはAIの問題だけでなく、実はヒトの言語習得にも大きく関わっているのではないか、というのが著者たちの問題提起である。
言語は極めて抽象的で巨大なシステムだが、まだ言語を知らない子どもがいきなりこの巨大なシステムを持っているはずがない。子どもは、どのようにこの巨大システムを習得し、自分の身体の一部にしていくのか。そしてなぜヒトだけが言語を獲得し得たのかという壮大な謎にも迫っていく。文字通り、知的興奮が止まらない快著。 <狸>
(中央公論新社 1056円)