「塀の中のおばあさん」猪熊律子著
「塀の中のおばあさん」猪熊律子著
2020年、入所受刑者全体に占める女性受刑者の割合は10.6%と、戦後初めて10%を超えた。敗戦直後の1946年は2.2%、平成が始まった89年は4.2%だからかなりの増加ぶりがうかがえる。中でも顕著なのは、65歳以上の高齢女性で、女性受刑者全体に占める割合が89年の1.9%から19%と激増している。本書は、そうした女性刑務所の実態を、女性受刑者、刑務所で働く職員らの声を通して描いていく。
女性受刑者の罪名は、「窃盗」と「覚醒剤取締法違反」の2つで8割を超える。これが高齢女性となると「窃盗」が89%とずぬけている。このうち多いのが万引だ。通常万引は微罪だが、にもかかわらず刑務所に来るのはそれがくり返されていることを示す。万引で入所している高齢女性は、世帯収入はやや低いものの生活困窮レベルにある者の割合は低い。万引するのは、困窮というより「節約」という意識が強いという。
また独居の割合が高く、周囲から孤立している傾向がある。著者がインタビューした受刑者からも「寂しい」ということが多く聞かれたという。高齢の受刑者が増えれば認知症の受刑者が増える。認知症の受刑者には入浴介助、歩行訓練、夜間のおむつ交換などの介護が必要となる。つまり、全国に11ある女子刑務所は「刑の執行」と「ケア」の両方を負わされているのだ。
また「窃盗」は高齢女性だけでなく摂食障害の女性受刑者にも多く見られる犯罪で、医療刑務所には摂食障害の女性受刑者専用の部屋がある。窃盗に次いで多い覚醒剤取締法違反の受刑者は、刑務所内で薬物依存離脱指導を受けている。さらには職業訓練や出所後の就職支援などのケアも刑務所で行われている。
なぜ高齢の女性受刑者が増えているかの社会背景とともに、刑罰とケアという相矛盾する問題を社会全体がどのように考えるべきかという大きな問いも投げかけられている。 <狸>
(KADOKAWA 1034円)