「美し、をかし、和名由来の江戸魚図鑑」田島一彦著、中江雅典監修
「美し、をかし、和名由来の江戸魚図鑑」田島一彦著、中江雅典監修
寿司に欠かせないマグロの漁が始まったのは縄文・弥生時代だという。平安時代の歌人・紫式部や和泉式部の好物はイワシだったが、宮中ではその名を呼ぶのさえ避けられていたそうで、人目を忍んで食べていたとか。
日本人は古くから、魚に親しみ、観察し、その名前や姿を記してきた。
本書は、江戸時代の代表的な博物画家・毛利梅園(1798~1851年)が描いた魚の図譜を紹介しながら、それぞれの和名の由来を解説した図鑑。
例えば春に産卵のため接岸するので「春告魚」などとも呼ばれる「鰊(ニシン)」。室町以前の風土記にも登場する日本人にはなじみのある魚だ。
和名のニシンの由来は、両親の長寿を祈って食べる魚であったという説のほかにも、父親と母親を意味する「二親」説、身を2つに割いて干していたことから「二身」などがあるそうだ。
今が旬の「鱸(スズキ)」の和名の由来は、容姿にちなんでいる。「すすぎ洗いをしたように白く美しい」説、「口が大きい割に尾の小さな魚」と見なされ、小さいことを表す古語「すず」を語源とする説などがある。
「平家物語」には平清盛の船に鱸が飛び込んできた後に天下をとったと記され、鱸は出世を象徴する魚と言われてきた。
その引きの強さから「磯の王者」と呼ばれ釣り人憧れの「石鯛」は、老成すると80センチに達する個体もある。
その頑丈な歯と顎で、貝類や甲殻類などの硬い殻を持つ生き物をかみ砕いて食べる習性から「石をもかみ砕く歯を持つ魚」の意でこの名前がついたといわれるという。
以後、その魚が日本で旬を迎える季節ごとに分けて、94種のお馴染みの魚を解説。
面白くて、食卓や寿司屋のカウンターでついウンチクを語ってしまいそう。 (パイ インターナショナル 3080円)