「ときを感じるお宿図鑑」吉宮晴紀著
「ときを感じるお宿図鑑」吉宮晴紀著
創業時以来の古い建物を大切に守り、今も営業を続ける全国各地の味わいのある「宿」を紹介するビジュアルガイド。
写真も収録されているのだが、本書の特徴は何といっても建築専攻の大学院生の著者が、自ら宿泊した宿を建築パースの技法で描いたスケッチだ。
たとえば、福島県と山形県の県境にある秘湯、滑川温泉の宿「福島屋」は、山の斜面に宝暦13(1763)年の創業以来、増築されてきた各建物が立っているのだが、その「湯治棟」と「宿泊棟」を「断面図」で紹介。高低差を利用して建てられたその位置関係や、内部の様子、さらに湿気がこもらぬよう清水の舞台と同じように「懸造(かけづくり)」という宙に浮いた土台の構造までひと目で分かるようになっている。さらにスケッチに手書きのメモを添えて建物の細部まで解説。
中には文化財に泊まれる宿もある。
そのひとつが「登録有形文化財」に指定されている会津若松の奥座敷・東山温泉の老舗「向瀧」だ。
明治時代に建てられた木造3階建ての本館は断面図で、客室の詳細は天井を外して斜め上からのぞき込むような視点で描いたスケッチで紹介。
日本随一の温泉郷、箱根の中で最も古い温泉地・湯本にある「萬翠楼福住」では、現役旅館として初めて国の重要文化財に指定された2棟の貴重な建物が現役で稼働。
花鳥風月が描かれた格天井や、銘木をふんだんに用いた内部の様子まで、贅を尽くした建物の詳細をイラストで伝える。
以降、元高級遊郭だった面影を今に伝える京都の「橋本の香」や、令和2年の大洪水で被害を受けながら復興を果たした熊本の球磨川温泉「鶴之湯旅館」など、北から南まで35軒を網羅。
ホテルでは味わえないサービスと居心地を求めてお宿にGO。 (学芸出版社 2200円)