「忘れられた日本史の現場を歩く」八木澤高明著
「忘れられた日本史の現場を歩く」八木澤高明著
記録が残る「表」の歴史とは異なり、忘れ去られようとしている日本史の場所や遺構を歩き、その土地に眠る記憶を掘り起こすフォト紀行。
かつて、高知の山中の集落には、呪術を用いた病気治癒の祈祷や村祭りで、村の生活に密接に関わる「拝み屋」や「太夫」と呼ばれる人びとがいたという。仏教や神道、陰陽道が入り交じったその信仰は「いざなぎ流」と呼ばれていた。今も、その現役の太夫がいると耳にして高知県物部村(ものべそん=現・高知県香美市物部町)へと向かう。
最初に訪ねた集落でも、手掛かりを求め訪ねたいざなぎ流開祖の墓がある中尾集落でも、最後の太夫が亡くなり数年が経っていた。しかし、別の地区の太夫のことを人づてに聞き車を走らせる。
そして、ついに太夫の為近幾樹氏(当時97歳)を探し当て、人の心を扱ういざなぎ流の太夫の祈祷についてじかに話を聞く。
またある時は、「相川トナ」という女性について調べるため、出生地の山口県岩国市阿品を目指す。
トナは1907(明治40)年、岡山の紡績工場で働いていた時にだまされ、23歳で海を渡った「からゆきさん」だった。
香港で女郎屋に売り飛ばされたトナは、シンガポールを経て、インドのムンバイで現地の客との間にできた子を出産。赤子は売られ、その後、トナは救助され3年ぶりに日本に帰国する。山の中の集落で話を聞くと、生前のトナを知っているという人物に出会う。
ほかにも、明治初頭まで弱った老人たちを「デンデラ野」と呼ばれる場所に連れていく「姥捨て」の風習が残っていた岩手県の遠野市、1785(天明5)年、大飢饉の最中の弘前藩を歩き、その惨状を伝えた旅行家・菅江真澄の足跡をたどる青森県つがる市など、19のルポルタージュを収録。
(辰巳出版 1760円)