「東洋医学はなぜ効くのか」山本高穂、大野智著
「東洋医学はなぜ効くのか」山本高穂、大野智著
今年2月に放映されたNHK BSプレミアム「フロンティア 東洋医学とは何か」で興味深い映像が紹介された。アルプスの氷河から発掘された5300年前のミイラの体に61カ所もの入れ墨があり、その位置が鍼灸のツボとほぼ一致していたのだ。東洋医学独自の概念と思われたツボが、古来、広く人類に認識されていたことを示すものと注目された。本書は同番組を制作した山本と、東洋医学を含む統合医療・補完代替療法を研究している大野とが、現在、科学的解明が進む東洋医学のメカニズムについてわかりやすく解説したもの。
鍼灸や漢方薬を利用している人は多いだろうが、手術や注射などの一対一対応的な処方と違って、手のツボを刺激するとなぜ内臓疾患が改善するのか「よくわからないけど効く」という感覚が正直なところではないだろうか。
ところが近年、米軍で耳ツボ療法が取り入れられたり、抗がん剤の副作用を抑えるために漢方薬が積極的に利用されたり、従来の西洋医療に加えて東洋医療や代替医療を組み合わせた統合医療が活用されている。同時に、鍼灸や漢方薬の効果についての科学的検証が進み、「なぜ効くのか」の仕組みが急速に明らかになりつつある。
東洋医学の基礎となる経絡と神経回路の関係、視床下部と交感神経を介した鍼灸の鎮痛作用、「第二の脳」といわれる腸の免疫機能と漢方薬との密接な関係等々、各種臨床試験のデータなどをもとにした最新の知見が紹介され、東洋医学が長年蓄積してきた経験値が科学的に裏打ちされていく。
不定愁訴や慢性疾患など西洋医学では治りにくい疾患に東洋医学は活用されていたが、そのメカニズムが解明されることで、より広範な医療の未来が開けてくるだろうことがよくわかる。図解入りの「ツボのセルフケア」や生薬の成分と作用の一覧なども付され、東洋医学入門書の役割も果たしている。 〈狸〉
(講談社 1210円)