「葉っぱ切り絵いきものずかん」リト@葉っぱ切り絵著
「葉っぱ切り絵いきものずかん」リト@葉っぱ切り絵著
SNSで発表する作品のファンが世界中に広がり、今や各地で展覧会が開かれる著者の最新作品集。
植物の葉っぱをキャンバスにして、繰り広げられる世界。これまでの作品と同じく、本書の主人公も誰にもおなじみのさまざまな生き物たちだ。
「草原のいきもの」の章のトップバッターを飾るのはライオン(表紙)なのだが、よく見るとサバンナには不似合いな扇風機に向かって口を開けている。作品タイトル「 あ、、~~~~~」が示すように、暑さを紛らわそうとしているのか、子どもがやるように扇風機に向かって無心に声を出しているように見える。
「いきものずかん」とは銘打っているが、このように著者の作品に登場する生き物たちは、どこか人間の暮らしと重なる。
次ページの作品「道路はシマシマの上を渡りましょう」では、お母さんシマウマが子どもシマウマに口でくわえた旗を渡して、横断歩道を渡るマナーを教えている。
「君が花開く日を、首を長くして待ってるよ」では、キリンが花に「じょうろ」で水を与えるしぐさで子の成長を願うキリンの思いを描く。
ライオンのタテガミやその背景となるサバンナに生える樹木、そして首振り扇風機とそこから延びて大地にささる電気コードプラグをはじめ、シマウマの体の模様に横断歩道を示すストライプと歩行者用信号機、さらにキリンのまだら模様まで。
とても1枚の葉っぱから切り出したとは思えない精巧さに目を見張る。
驚くことに、これらの作品は、シンプルなもので2時間、細かいものは6~8時間ほどで仕上げ、作ったその日のうちに戸外に持ち出して、それぞれの作品に合った場所で、自ら手に持って撮影しているという。ライオンなら公園の豊かな緑を借景に、シマウマの写真は実際の横断歩道に重ねて撮影するなど。こだわりの背景が、より作品を楽しくしている。
続く「森のいきもの」の章の、蚊やり豚のおかげでぐっすりお昼寝ができたブタを描く「君のおかげで、蚊もどこかにトンでいったよ」では、蚊取り線香の煙から逃げ出す蚊まで丁寧に切り出され、その途方もない作業に感嘆。
「里のいきもの」の章の「葉らぺこあおむし」という作品にいたっては、アオムシに食べられた葉っぱを表現するのに、キャンバスとなる葉っぱが網目状に切り出され、そのお隣のページの作品「あおむしが、きれいな蝶になりました」では、蝶がお花畑を飛んでいるのだが、よく見ると大きく切り出された蝶は、1本の葉脈だけで葉っぱ本体とつながり、本当に宙を舞っているかのようだ。
以降「水辺」「海」「空」、そして「空想」のいきものまで1枚の葉っぱを舞台にして自由自在に独自の世界を展開。眺めていると、その優しい作品世界に包み込まれ、心が癒やされるのを感じることだろう。(写真はすべて、「葉っぱ切り絵 いきものずかん」から) (講談社 1650円)