「C-GRAPHIC INDEX」後藤哲也編著
「C-GRAPHIC INDEX」後藤哲也編著
近年、さまざまなデザインコンペティションで、中国や台湾など漢字文化圏のグラフィックデザイナーが受賞者にその名を連ねているという。
加速度的に躍進するそんな漢字文化圏のグラフィックデザインの現在地を紹介するビジュアルブック。
ひと口に漢字文化圏といっても、伝統的な漢字である「繁体字(正体字)」を現在も使用している地域や人々と、中国共産党による「文字改革」政策によって簡略化された「簡体字」を用いる中国大陸に分かれる。
まずは繁体字文化圏である香港やマカオ、台湾のグラフィックデザイナーを紹介。台北を拠点にする「形容事物所」は、大学の同窓生だったツァイ・トンホン(Danny)とシュウ・シュウチュン(June)が設立したデザイン事務所。
シュウのデザインとの出合いは、小学校の美術の授業で日本の自由工作の本を買ったときだったという。折り紙で富士山を立体的に作ったり、新聞や雑誌の文字や図案を使って年賀状を作る方法が紹介されていて夢中になったそうだ。
そうしたプロフィルや、デザインや漢字に向き合う姿勢を聞くインタビューとともに、台湾文化博覧会のとある会場全体で使用された独自の「時間を刻印した書体」などのエキシビションアイデンティティーや、新北市立鴬歌陶磁博物館のミュージアムショップ再開のためのリブランディングなど、2人が手掛けたこれまでのデザインワークを解説。
香港で活動するウォン・ユイチョンは、「デザイナーが行っていることは人々の純粋な感覚を呼び覚ますことであり、その中で文字をデザインに応用することはひとつの方法に過ぎない」という。
病院に芸術を取り入れ、患者に精神的な癒やしと励ましを与えることを目的としたプロジェクトで、彼はアーティストが病院のワークショップで患者と交流しながら制作した作品を展示する「対話の風景」と題した展覧会のコンセプトを提案。
そのプロジェクトのために彼がデザインしたキービジュアルは、赤と青に塗り分けられた人の顔を思わせる物体が向き合うシンプルなものだが、視線をこちらに向かせる訴求力に満ちている。
「簡体字」文化圏の中国・上海のデザイナー、リー・チャンシンによるブランドの辰年をテーマにしたロゴデザインは、伝統的な漢字の骨格構造を弱め、装飾性を強化することで独特なビジュアルアイデンティティーを形成している。
ほかにも、ロンドンや東京を拠点に活動する中華系のデザイナーも含め、次代を担う1980年代から90年代に生まれたMZ世代(ミレニアル~Z世代)の56組を紹介。
日本人にもなじみのある漢字を用いたデザインの世界的な広がりを予感させ、中華圏デザインの今に触れられる、関係者、そしてデザイナーを志す人必読の一冊。
(グラフィック社 3410円)