「イタリアのブルータリズム建築」ロベルト・コンテ、ステファノ・ペレゴ編集/写真、石田亜矢子訳
「イタリアのブルータリズム建築」ロベルト・コンテ、ステファノ・ペレゴ編集/写真、石田亜矢子訳
ブルータリズム建築とは、コンクリート打ち放しの建築のこと。1950年代に登場し、モダニズム建築の流れをくんだムーブメントとして流行したが、70年代に衰退。しかし、半世紀を経た今、再評価されているという。
本書は、イタリア各地のブルータリズム建築を紹介する写真集。
まずは北部、フランスとの国境に位置するリグリア州の建物から。
横長の巨大な四角錐と円筒、そして直方体を融合させたようなサボーナという町の「正義の宮殿」(裁判所=87年)や、遠くから見るとドラム式洗濯機を並べたように見えるジェノバの「ペーリ3集合住宅」(80-89年)など。
コンクリート打ち放しの建物と聞くと、日本の街角で見かける直方体のシンプルな建物をつい連想してしまうが、コンクリートという素材の可能性を存分に利用したユニークかつ大胆な建物が次々と登場する。
スイスと国境を接するバッレ・ダオスタ州アオスタにある、かつて校舎だったと思われる「旧・レジーナ・マリア・アデライデ高等学校」(76年)は、曲線と直線のつくり出すリズムに、大きなガラス窓と最上階から伸びる庇のような円形リングがアクセントになり、何とも独創的。
半世紀近くを経たコンクリートの壁はやや飴色を帯び、それが朱が混じったような窓枠の赤と配色の妙をつくり出す。
以降、南下しながら、全国各地のブルータリズム建築を巡る。
自在にコンクリートを操って生み出した曲線と、屋上部分から突き出した屋根を支える赤く塗られた鉄骨の直線が印象的な「ジュゼッペ・メアッツァ・スタジアム『サン・シーロ』」(ロンバルディア州ミラノ=90年)などの巨大な建築物から、丘の上に出現した巨大な戦艦のような「ゴンテーロ邸」(ピエモンテ州クミアーナ=69-71年)などのような個人の邸宅まで、103物件を取り上げる。
中でも特に目を引くのが教会建築だ。
長さの異なるコンクリート製の石柱が天に向かって伸びあがり、生き物の背中のような美しい曲線を描くローマの「サンタ・マリア・マドレ・デル・レデントーレ教会」(87年)や、トラスト構造を連想させる三角形が果てしなく繰り返される「モンテグリサ寺院」(フリウリ=ベネチア・ジュリア州トリエステ=65年)など。バチカンのサン・ピエトロ大聖堂などの壮麗なイタリアの教会建築を見慣れた目には斬新に映るが、祈りの場としての荘厳さは決して引けを取ることはない。
ほかにも、墓地や集合住宅など、コンクリートという素材の魅力をとことんまで追求した設計者たちの渾身の作品にスポットライトを当てる。
古代ローマの遺跡をはじめ、ルネサンスやバロック様式の建築物など、国そのものが建築史の博物館のようなイタリアの新たなコレクションを堪能する。
(グラフィック社 2750円)