「ニッポン獅子舞紀行」稲村行真著
「ニッポン獅子舞紀行」稲村行真著
獅子舞は、最も数が多い民俗芸能といわれ、かつては全国8000カ所もの地域で行われていた。
中国発祥の獅子舞は、遅くとも7世紀に朝鮮半島を経て、伎楽という芸能の一部として伝来。
やがて日本各地に広がり、東北地方では熊野信仰のもとで「神様の仮の姿」として神格化される。それが山伏の神楽に取り入れられ「権現様」の名称で普及。江戸時代以降は、伊勢信仰を広める「伊勢大神楽」が流行。その神楽を家に招き、かまどばらいをしてもらい、火伏や無病息災を祈念した。このように伝播する中で、土地の気候や風土、暮らしなどと結びつき個性あふれる舞い方や意匠が誕生し、現在の獅子舞文化を形成していった。
本書は、そうした獅子舞の基礎知識とともに、これまで全国500カ所以上の獅子舞を取材してきた著者がその一部を写真とともに紹介するフォト・紀行エッセー。
今年の正月は、秋田県の由利本荘市の民俗芸能伝承館で行われた「本海獅子舞番楽」(東北の一部では神楽を番楽と呼ぶ)を取材。番楽は講中と呼ばれる地域の団体ごとに行われ、13講中が国指定重要無形民俗文化財に指定されている。そのひとつ、猿倉講中による「やさぎ獅子」は、2人の子どもと2人の大人がそれぞれ獅子舞に入って2頭で舞う親子共演。
もともとは大人だけで舞っていたのだが、遊び感覚で子どもたちに伝えることで芸能の継承に成功しているという。
ほかにも、温泉地として名高い神奈川県箱根町の宮城野と仙石原に伝わる希少な「湯立獅子舞」や、トラックの大きさを超える巨大な「飯田の獅子舞」(長野県)、全国で最も獅子舞が盛んな香川県の「猫獅子舞」など。各地に伝わる32の獅子舞を紹介しながら、獅子舞文化の奥深さを伝える。
(青弓社 2640円)