「秘密の古代ギリシャ、あるいは古代魔術史」藤村シシン著
「秘密の古代ギリシャ、あるいは古代魔術史」藤村シシン著
幼い頃「もしも魔法が使えたら……」とさまざまな願い事を夢想した経験は誰もがお持ちだろう。ところが、紀元前8世紀~紀元後5世紀の地中海世界に生きた古代ギリシャ人たちは、本当に魔法の術を使っていたという。
彼らの指輪には「宝石魔術」が施され、股間には「モテる魔法薬」を塗り、女性は夫を服従させる呪文入りの帯を身に着けるなど。誰もが日常的に魔術を使用し、憎い人がいれば、鉛板に呪いの言葉を書きなぐり、土中に埋め、冥界の神々に直訴する。そんな「呪詛板」が、1700枚以上も見つかっているそうだ。
本書は、古代の文献に出てくる彼らが使用した実際の魔術を紹介するビジュアルブック。
まずは「物もらいを治す」とか「(鼻)血を止める」など、巷で広く唱えられていた呪文から。高度な呪文になると回文構造になっているという。
なぜ、こうした訳の分からない文字列や母音の連続で構成される呪文が効力を発揮するのか。当時の魔術師たちは「秘密を知っていることの力」だと考えていたそうだ。
彼らは呪文を「神々の秘密の名前」と考え、神々に「私はあなたの秘密の名を知っている者です。そのくらい特別な知識を持っています」と呪文を唱えることでアピールしているのだという。神々は、本当の名前で呼ばれたら無視しづらいので、唱えた人間の言うことを聞いてくれる--それが呪文の本質だそうだ。
以降、病気や死が他人に降りかかるよう願う「呪術」から、邪悪な魔術や病魔・天災に対抗する「防衛術」、都合のいいように相手の気持ちを操作する「恋愛魔術」、さらに死者を操る「死霊魔術」に、惑星や星々の力を不正操作する「天体魔術」、そして錬金術に至るまで網羅。
身に付けた魔術は決して悪用なさらぬように。
(KADOKAWA 1870円)