マニアに学ぶ!「本を偏愛する人」本特集
「編集を愛して」松田哲夫著
本が好きすぎて、気づけばすっかり本の沼の仙人のような存在になる人たちがいる。今日は、そんな本マニアの発想力に着目してみよう。今回は、編集者、書評業界の大御所など、出版業界関係者4人が著した本をご紹介!
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「編集を愛して」松田哲夫著
中3から古本屋に通い、雑本コレクターを目指すものの、限られた資金と情報力と時間の中で集めつくすことは不可能だと悟った著者は、編集者となり「お気に入りのものだけを集め編集することで世界をコンパクトに手中にする」という野心に目覚めた。本書は、こうしてアンソロジーの名手となった彼が、個性豊かな人々と共に世界を編集しつづけた半生をつづったエッセー集。
たとえば、全16巻累計108万部を記録した「ちくま文学の森」。安野光雅との出会いと再会、ちくま文庫の創刊、東京百話の刊行の3つの出来事が、「ちくま文学の森」誕生に大きな役割を果たしたのだとか。編集会議の様子や巻立て、装丁決めなど、アンソロジーが立ち上がっていくまでの様子が興味深い。
かつて読んだ作品も、読み返してみたくなりそう。
(筑摩書房 2090円)
「どうかしてました」豊﨑由美著
「どうかしてました」豊﨑由美著
「文学賞メッタ斬り!」でお馴染みの人気書評家による、本人いわく「最初で最後の」エッセー集。
多動でケガが絶えなかった子ども時代からサブカルと競馬にハマって貧乏だった青春時代の出来事、生活全般がダメダメな状況など、あけすけに開示。書評で見せる鋭い観察眼を「どうかしていた」自分自身に容赦なく向ける様子がうかがえる。
本に意見を書き込みながら読んでいく独自の読書法や、教訓や感情移入や読みやすさを全く期待できない木下古栗の「Tシャツ」などの知る人ぞ知る推しの作家の作品話も面白い。加えて森正蔵の「解禁昭和裏面史-旋風二十年」、古川日出男の「曼陀羅華X」、飯嶋和一の「出星前夜」なども例に挙げ、本が体現する時代の空気からも目をそらさない。
強者や流行に迎合しない著者の生き方も見えてくる。
(集英社 1870円)
「編集宣言」松岡正剛著
「編集宣言」松岡正剛著
伝説の編集者として一時代を築き、去年8月に逝去した著者。本書はそんな著者が工作舎の出版案内パンフに連載していた「エディトリアル・マニフェスト」を軸に、雑誌「遊」時代のエッセーを加えて編集したもの。若き日の著者が編集をどう考えていたのかを知ることができる。
たとえば、「間と対」のチャプターでは、本を作るにも読むにも、心得るべきは「本以前のコンディション」だと断言。外側からくる魂が仮泊する依代としての役目を本が担っており、重要なのはテクニックではなく常に最高のコンディションを整えて寄せてくる魂を迎え入れることだと説く。
「本の背はエディターとデザイナーに魅惑的な真剣勝負を挑んでくる“垂直の花道”」「本とは文字と図と写像による一個の生態層」など、本質をとらえようとする表現にも魅了される。
(工作舎 1760円)
「すてきなモンスター」アルベルト・マンゲル著 野中邦子訳
「すてきなモンスター」アルベルト・マンゲル著 野中邦子訳
文学作品に登場して読者の心をとらえるキャラクターは、空想の中で生き生きと動き始めるモンスターだ。世界各地で暮らした経験を持つ著者にとって、外の風景がどんなに変わっても、本の扉を開けばお馴染みのキャラクターが存在することが何より安心できることだった。
本書は、編集や翻訳や小説の執筆のほか、国の図書館館長を務め、読書推進のための国際センター開設にも尽力した著者によるキャラクター紹介を軸としたブックガイド。赤ずきん、ハイジのおじいさん、ドラキュラなど西洋でお馴染みのキャラはもちろん、人生がすべて夢だと悟る朝鮮王国で著された「九雲夢」の性真、「西遊記」の沙悟浄なども登場。
脇役にもスポットを当てて、ひとつの話の中だけに閉じ込めない独自のキャラクター論を縦横無尽に展開している。
(白水社 2970円)