<第1回>金田一のボサボサ頭は脱色して黒く染め、さらにパーマをあてて…
黒沢明らと並ぶ日本映画の巨匠、市川崑の生誕100年を記念した映画祭が今月開催される。市川監督の仕事とはどのようなものだったのか。代表作「犬神家の一族」などに主演した石坂浩二(74)に聞いた。
――金田一耕助役のオファーを監督から受けたとき、最初は断ったと?
「ええ。当時僕は35歳くらいだったと思いますが、金田一と言われても、40歳くらいという設定年齢すら知らなかったんです。金田一耕助は子どもの頃に読んだ横溝正史さんの原作に『アメリカ帰りの名探偵』と書いてあって、ダブルの背広で拳銃をぶっ放すというくらいのイメージでして。それで、ちょっとやりたくないなあ、と。武器も何も持っていない、いわゆる探偵というのは、まだどなたもやっていない時代でしたね」
――監督は何と?
「『とにかく原作を読め、あの通りにやるから』の一点張り。僕が読んでいたというのは、確か『小説倶楽部』の読み切りで、金田一は最後に出てきたりこなかったりする程度でした。中学生の頃まで、江戸川乱歩を読むほうが生意気ふうと言いますか、横溝さんは大衆でエログロで売っているだけというような悪口があったんです。とはいえ、監督に言われて読み直したら、懐かしい日本というか、レトロな感じがした。かつての印象が払拭され、『犬神家』は探偵小説なんだけど、犬神佐兵衛をめぐる凄い長い長い大河ドラマなんだとようやくわかり……」