故・藤山寛美に師事 曾我廼家八十吉が見た“ホンマの天才”
なぜやめなかったか? それは人間というより喜劇役者・藤山寛美を尊敬し、どんなことがあっても師匠やと思っとったからでしょうね。実際、稽古は厳しくて、勝負と考えておられた「開けの5分、10分」のために2時間、3時間、ダメ出しされるのはしょっちゅうやった。何十回、演じてもやり直しさせられ、それでもダメ。ところが、先生がいっぺん演じると、女役でも社長でも丁稚でもピタッとハマるんです。ホンマの天才なんですよ。
■存命中、一度も褒められなかった
ある時、「客席に7人、おまえを置け」と言いはったことがありました。1階席、2階席、3階席の違った位置、7カ所から客観的に自分の芝居を見ることを想像して芝居をしろ、独りよがりになるなの意味です。
そうやってたくさんのことを教えていただき、自分なりに工夫して演じても、そう簡単にいい芝居はできないものです。残念なことに、先生がご存命の間、一度も褒められたことはありませんでしたね。ようやく納得できる舞台ができたのは40代になってからでしょうか。新喜劇に入って20年以上経ってました。